信用毀損罪について|具体的なケースと対処法

信用毀損罪について|具体的なケースと対処法

3、信用毀損罪が成立する具体的な事例

信用毀損罪の成否が問題となる具体例を紹介します。

(1)一般的なケース

信用毀損罪が成立し得る「虚偽の風説」について以下のようなケースが挙げられます。

Aさんは借金を返済するつもりがないようだ(人の支払意思に対する社会的・経済的な信頼)
株式会社Bは近々倒産しそうなので投資が無駄になりそうだ(人の支払能力に対する社会的・経済的な信頼)
コンビニCで購入した飲料Dに洗剤が混入していた(商品の品質に対する社会的信頼)

たとえば、コンビニCで販売されている飲料Dを購入した後、購入者の手で洗剤を注入した場合に「コンビニCで購入した飲料Dに洗剤が混入していた」という虚偽情報を流布したときには、「コンビニCは異物が混入している飲み物を売っている」「Dの飲料メーカーは異物を混入させるような杜撰な工程で商品を製造している」という形でCやDの社会的・経済的信頼は毀損されて、売上げや評判が落ちてしまうでしょう。したがって、この場合には、信用毀損罪が成立すると考えられます。

ただし、本当に洗剤が混入していた場合には、「コンビニCで購入した飲料Dに洗剤が混入していた」という情報は虚偽の風説ではないので、信用毀損罪には問われません。

(2)インターネット上のケース

SNSの普及によって、信用毀損罪に問われ得るインターネット上の書き込みが問題視されています。たとえば以下のようなケースが考えられます。

「飲食店Pは新型コロナウイルス感染症に罹患中の従業員を出勤させている」という書き込み
「飲食店Qは賞味期限切れの食材を調理して客に提供している」というレビュー
「転職サイトRに掲載されている株式会社Sの休日条件や福利厚生の内容は嘘だ」という口コミ

このような書き込み(ツイートなど)が虚偽の場合、対象者の社会的・経済的信頼を毀損していると言えるので、信用毀損罪が成立し得ます。

なお、このような書き込みにお店や会社の業務を妨害する危険性が認められるときは、偽計業務妨害罪も成立します(両罪が成立した場合どうなるかについては後述します)。

また、以下のように、インスタグラムの画像やユーチューブなどの動画投稿の場合にも、信用毀損罪が成立する可能性があるものが存在します。

スーパーXで購入した惣菜パックに虫を入れて写真撮影後、当該画像を投稿した
ECサイトYで購入した化粧水Zを使ったら肌がただれたような編集をした動画を投稿した

このように、画像・動画のみであっても信用毀損罪が成立し得ます。

4、信用毀損罪と似ている他の犯罪との違い

信用毀損罪と似ている犯罪として、偽計業務妨害罪(刑法第233条後段)・名誉毀損罪(刑法第230条)が挙げられます。

(1)偽計業務妨害罪との違い

偽計業務妨害罪は、信用毀損罪と同様刑法第233条に規定されており、その手段や法定刑において共通しています。他方で、両罪は何を保護法益としているかという点で異なります。

すなわち、偽計業務妨害罪は業務の円滑な遂行を、信用毀損罪は人の(経済的)信用を保護法益としています。

なお、人の信用を毀損すると同時に業務妨害の結果も生じうるケースも少なくはありませんが、この場合には、信用毀損罪と偽計業務妨害罪の両罪が成立し、観念的競合の関係になります(刑法第54条1項)。

両罪の法定刑は同じなので、3年以下の懲役または50万円以下の罰金の範囲内で判決が言い渡されます。

(2)名誉毀損罪との違い

名誉毀損罪とは、公然と事実を摘示して、人の名誉を毀損した場合に成立する犯罪です(刑法第230条)。

名誉毀損罪の法定刑は、「3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金」です。

信用毀損罪と名誉毀損罪の違いは以下3点です。

保護法益の範囲
該当情報が真実である場合の犯罪の成否
親告罪か否か

①名誉毀損罪は経済的評価以外の場面でも成立する

信用毀損罪における「信用」は人の経済的な信頼に限定されます。

これに対して、名誉毀損罪における「名誉」とは、人についての事実上の積極的な社会的評価のことです(「事実的名誉」と言います)。

つまり、信用よりも名誉の方が幅広い対象を含んでいるのです。

たとえば、「飲食店Aの経営者は前科者である」という虚偽の風説を流布した場合、経済的信用とは関係ないので信用毀損罪は成立しませんが、名誉毀損罪の処罰対象になる可能性が高いでしょう。

②名誉毀損罪は摘示した内容が真実でも成立する

前で述べたとおり、流布された情報が真実であれば信用毀損罪は成立しません。

これに対して、名誉毀損罪では提示内容が真実であれ虚偽であれ、その内容によって相手の社会的評価が下がった場合には名誉毀損罪が成立し得ます。

なお、真実である事実を摘示したときに常に名誉毀損罪が成立すると言論の自由が脅かされるため、当該事実が公共の利害に関するもので、かつ、専ら公益を図る目的で事実を適示したと認められれば、名誉毀損罪は免責されます(刑法第230条の2)。

③名誉毀損罪は親告罪

名誉毀損罪は親告罪なので(刑法第232条1項)、被害者本人や法定代理人による告訴がなければ公訴提起されません。

これに対して、信用毀損罪は非親告罪なので、被害者本人などからの刑事告訴がなくても捜査活動が行われ、起訴される可能性があります。

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