薬物中毒の治療
急性中毒、慢性中毒のそれぞれの治療は下記の通りです。
急性中毒
急性中毒では意識障害やけいれん、呼吸・循環障害といった症状がよくみられるため、気道と循環の確保を優先します。
意識がはっきりしない場合は誤嚥(食べものが誤って気管に入ること)による窒息の可能性があるため、気道確保を目的として気管挿管をおこないます。
けいれんしている場合にはジアゼパムやドルミカムなどの薬剤を使用しますが、それでも収まらない場合には静脈麻酔薬の使用を検討します。
また命の危険がある不整脈が出現した場合には、除細動をおこなうこともあります。
その後はできるだけ早く体の外へ毒物を出すために、胃の洗浄や活性炭の注入、原因薬物に対する解毒薬(拮抗薬)の投与をおこないます。
慢性中毒
慢性中毒の治療は断薬が基本となります。
幻覚や妄想の症状がある場合は、向精神病薬の薬が処方されます。症状は内服後1~3ヶ月以内に改善することが多いといわれています。
幻覚や妄想などの精神症状は改善しても、薬物に対する依存自体が消えたわけではありません。薬物依存が治らない限り、薬物乱用をくり返してしまいます。
薬物依存を改善する治療としては以下が挙げられます。
心理療法
集団精神療法としてのミーティングや認知行動療法などのプログラムがおこなわれます。あわせて家族へのプログラムも実施されます。認知行動療法とは、ものの受け取り方や考え方、行動の仕方を修正することを目的としておこなわれる治療法です。
自助活動への参加
自助活動には、入所型の民間リハビリテーション施設(ダルク)や同じ薬物依存の仲間が集まってミーティングを行う自助グループ(ナルコティクス・アノニマス)があります。
自助活動は、依存症という障害がつくられる上で変化してしまった、生活習慣や物事のとらえ方、対人関係などを改善していくうえで効果があります。依存状態を抜け出すためには、良くなったり悪くなったりをくり返しながら、時間をかけて回復していく必要があります。
自助活動へ参加し、同じ問題を抱える仲間と支え合うことは、回復までの長い道のりを乗り越える手助けとなります。
しかし薬物依存者は「止めようと思えばいつでもやめられる」と障害を認めず、なかなか治療を受けたがりません。
薬物依存者の家族が、ダルクの家族会に参加した時点では治療を拒否していても1年後にはそのうちの約半数が治療機関につながっているという調査結果がでています。そのため長期目線で少しずつ治療につなげる心持ちが必要です。
薬物中毒になりやすい人・予防の方法
薬物中毒になりやすい人の特徴には、低年齢で薬物を使い始めた、うつなどの精神疾患がある、過去に家族が薬物を使っていた、薬物を使う人が周りにいるなどが挙げられます。
薬物中毒の予防は、たった1回でも薬物を使わないこと、また他人に薬物を勧められても断ることです。
慢性中毒は、本人だけではなく家族を巻き込む病気です。自分の力で薬物の使用をコントロールできないため、家族の手助けが必要となります。
ただし家族の問題として悩みを抱え込む必要はありません。最寄りの保健所、各都道府県にある精神保健福祉センターなどの機関に相談し、できるだけ早く専門医による治療につなげることが、解決の糸口となるでしょう。
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参考文献
依存症についてもっと知りたい方へ|厚生労働省
ご家族の薬物問題でお困りの方へ|厚生労働省
阿南英明:急性中毒(特に薬物中毒).日本内科学会雑誌 , 102(2), 455-460, 2013
配信: Medical DOC
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