社会現象にもなったあの大ヒット映画「カメラを止めるな!」(2017年)の上田慎一郎監督の最新作である。「カメ止め」は低予算、無名俳優だったが、本作は堂々たる製作費と著名俳優が勢ぞろいする立派な構え。内野聖陽、岡田将生、小澤征悦ら芸達者が丁々発止を繰り広げる。韓国ドラマ「元カレは天才詐欺師38師機動隊」を原作にした仕上がりは見事の一語だ!
税務署に勤める超実直な公務員・熊沢(内野)は、天才詐欺師・氷室(岡田)の巧妙なペテンにかかり金をだまし取られる。氷室の居場所を突きとめると「あなたが追っている偽善者の実業家・橘(小澤)の脱税分10億円をパクってあげる」と口説かれる。しかし、マジメな熊沢だけに、「犯罪には加担できない」と断るが、みずから抱える“ある復讐”のために手を握ることになる。かくして詐欺師集団「アングリー スクワッド」が結成された─。
正直に言うと「カメ止め」は世評ほど「面白い」とは思わなかったが、今回は見事に「プロが作った娯楽映画」になっている。主因は、やはり役者の厚みだ。先月公開の「八犬伝」で、ワイルドな葛飾北斎を好演した、わがご贔屓男優・内野聖陽が、一転してクソマジメな公務員に扮して絶妙な味を醸す。
一方、岡田、小澤もクセ者ぶりを発揮。この絶妙なアンサンブルに、さすが「銭の取れる顔ぶれ」と唸ったしだいだ。一部で、上田監督と岡田の齟齬が報じられたが、映画の中身には影響ゼロと見た。
上田監督は「スティング」(73年)、「オーシャンズ11」(01年)などの詐欺師映画が好きで、その趣味が存分に発揮されている。終盤のトリックはオリジナルだそうだ。とくとご覧あれ。
観る側も痛快な気分になること間違いナシ!
(11月22日全国公開、配給・NAKACHIKA PICTURES JR西日本コミュニケーションズ)
秋本鉄次(あきもと・てつじ)1952年生まれ、山口県出身。映画評論家。「キネマ旬報」などで映画コラムを連載中。近著に「パツキン一筋50年」(キネマ旬報社)。
配信: アサジョ
関連記事: