重症度別の治療法
編集部
KL分類のステージと、自覚症状で診察する「初期」「中期」「末期」は対応しているのですか?
増本先生
一般に、グレード1~2が初期、3が進行期、4が末期と対応しているとされています。しかし自覚症状の出現には個人差がありますから、KL分類のステージと自覚症状が必ずしも一致するわけではありません。KL分類はあくまでもレントゲン画像上でのステージ分類であり、臨床上、重症度を分類するものではないことに注意が必要です。
編集部
そうなると、どのようにして重症度を見分けるのですか?
増本先生
画像診断によるKL分類も参考の一つにしますが、それだけでなくWOMACといって、各症状のスコアリングも重要視します。WOMACとは痛みや機能障害などの臨床症状を患者さん自身が点数化したものです。治療法を決めるときにはKL分類やWOMACの結果などを掛け合わせ、総合的に判断することが必要です。
編集部
重症度別の治療法について教えてください。
増本先生
まず初期(グレード1)では保存療法を行います。消炎鎮痛薬やヒアルロン酸注射で痛みなどの症状を軽減するほか、運動療法を行い、膝関節の可動域を維持します。また、PRP療法やAPS療法などの再生医療も、膝軟骨が完全にすり減る前の初期や中期(グレード2・3)に行うことが推奨されています。変形が進行していないうちにPRP療法やAPS療法を行うことで炎症の改善が期待でき、症状が軽減されたり、膝に水が溜まりにくくなったりします。
編集部
保存療法で効果が期待できない場合は、どのような治療を行うのですか?
増本先生
一般的には手術を検討します。手術には主に骨切り術と人工関節置換術があり、膝関節の状態や症状、患者さんの年齢などを考慮して決定します。
編集部
それぞれどのような手術ですか?
増本先生
骨切り術とは軟骨がすり減らずに残っている部分に体重の負荷がかかるよう、骨の一部分を切ってO脚やX脚の変形を矯正する手術のことです。人工関節置換術とは、傷んだ関節を人工のインプラントに置換する手術のことです。どちらにもメリット・デメリットはありますが、一般的には年齢が比較的若くて骨の変形が少ない場合には骨切り術、そうでない場合には人工関節置換術を行います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
増本先生
手術はあくまでも最終手段。一度手術をしたら後戻りができないということを覚えておいていただきたいと思います。「痛みをなんとかしたい」といってすぐ手術に飛びつくのではなく、まずはいろいろな保存療法にチャレンジすることが重要です。2023年版のガイドラインでは、推奨度1(強く勧める)とされるものは運動療法、消炎鎮痛薬、日常的な教育プログラムの3つです。これらのなかでも特に大事なのは理学療法士による運動指導。理学療法士によるしっかりとしたマンツーマンの運動指導は、変形性膝関節症の治療や進行予防においてとても重要です。よく「リハビリをやっています」と言っても、実は患部に電気を当てているだけという方も見受けられます。変形性膝関節症の治療を受ける際には、必ず質の良い理学療法士が在籍している医療機関で、マンツーマンの運動指導が受けられるかどうかを確認することをおすすめします。
編集部まとめ
変形性膝関節症の治療法にはさまざまなものがありますが、重要なのは運動指導。膝周辺の筋肉をつけて膝にかかる負担を軽減するほか、膝の可動域を回復させる働きがあります。まずは自力で症状の改善を目指し、どうしてもそれでは回復が期待できない場合には手術を検討してみると良いのではないでしょうか。
配信: Medical DOC