【夢ごは日誌】喜べたことを、喜ぶ|清繭子

【夢ごは日誌】喜べたことを、喜ぶ|清繭子

『夢みるかかとにご飯つぶ』でエッセイストデビューした清繭子の、どちらかといえば〈ご飯つぶ〉寄りな日々。

喜べたことを、喜ぶ

保育園に子どもを迎えに行き、玄関で靴をはかせていると、同じクラスのパパさんが見知らぬ年配の女性を連れてお迎えに来た。お迎えはいつもママなのにどうしたんだろう。

あら、もしかして……。

パパさんは私を見るなり、顔をぱっと明るくして「あの! 無事に産まれたんです!」と言う。ママさんは第二子妊娠中だったのだ。

「わーっおめでとうございます! そうかな、って思いました」

「そうなんですそうなんです、だからベビーシッターさんにお迎えの説明をしようと思って、」

それから赤ちゃんの性別や誕生日を教えてくれた。母子ともに健康だという。

ママさんとはお家や公園で遊んでLINEも知っている仲だけど、パパさんとこんなにしゃべったのは初めてだった。こんなににこにこしているパパさんは初めて見た。

赤ちゃんが生まれたことを誰かに言いたくてたまらなかったんだろうな、と思ったら、ふくふくと嬉しい気持ちがこみあげてきた。

昔、友だちと小さな島へ旅をしたことがあった。

ノープランで行ったので、港でぼーっとしていたら、親切なおばさんが車に乗せて島を案内してくれることになった。

おばさんはとてもニコニコして、「あのね、今日とてもいいことがあったんだよ。赤ちゃんが生まれたんだよ。この島に住んでる人は200人。それが201人になったんだよ。今日は島のみんなでお祝いだよ」と言った。

「おばさんのお孫さんですか?」というと、「ちがうよ。〇〇さんとこの子」とまたニコニコする。

友だちが「なんか、泣けてきた」と目をごしごしこすった。

あの時の気持ちと同じだ。

命が生まれたことが嬉しい。命が生まれたことを喜ぶ人がいることが嬉しい。命が生まれたことを一緒に喜べたことが嬉しい。

私は今、子宮の病気に苦しんでいる。たぶん、もう赤ちゃんを産むことはできないけれど、とても嬉しかったんだ。

「おめでとうございます」って心から喜べたこと。

 

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