海でパニクって溺れかけたアクアスロン大会|大石祐助

海でパニクって溺れかけたアクアスロン大会|大石祐助

人生において三度「死」を覚悟したことがある。

 

キャンプ場で水と油のマリアージュを引き起こし、タープを突き破るほどの大爆発を発生させた時。ルワンダでのストレスが限界に達し、バスルームで卒倒し走馬灯が駆け巡った時。

そして、アクアスロンのスイムでパニックになり溺れかけた時の三度である。

 

数時間後、このタープが大炎上で死にかける。

目を覚ますと、この洗面台の前で倒れていた。

僕たちは無意識のうちに限界を決めています。

山の中で寝るなんてぜったいムリ。アフリカで暮らすなんてぜったいムリ。でも、挑戦してみると意外なほどアッサリ出来てしまうものです。

 

アクアスロンもそうでした。

トライアスロンからバイクを抜いたラン10kmとスイム1500mの競技、それがアクアスロンです。

アクアスロン大会開始前の様子、この数時間後、溺死しかける。

10kmは走ったことがあるけど、1500m泳ぐなんてぜったいムリ。

これまでの最長は小学校の授業で泳いだ50mです。これから挑むのは自身の限界の三十倍です。

 

しかし、エントリーしてしまった以上、もうやるしかありません。三ヶ月後に迫った大会に向け、近所のプールで練習あるのみ。

 

すると、意外や意外。

1500m泳げてしまうではありませんか。ぜったいにムリだと思っていたのに。自分で限界を決めていたんだ。思い込みは思い込みでしかないんだ。

そんなわけで猛特訓の末、臨んだアクアスロン。

 

開始二分で棄権。

 

知ってましたか。

海って、プールと違うんです。

 

波がある。足が届かない。

このとてつもない恐怖に爆発的に心拍数が上がり過呼吸に。

 

やばい、くるしい、、しぬ、、、。

 

すると、すかさずライフセーバーさんが救助に。

「大丈夫ですか? 来年もあるんでムリしない方がいいですよ」。

三ヶ月の特訓を思い出し完走したいと願い、悩むことニ秒。ジェットスキーの後部座席に引き上げられるアラサー。

 

果敢に海へ挑むライバルたちに背を向け、スタート地点の砂浜へ。

「海最高! 夏フォーエバー! 思い出! 青春! ズッ友! ラブアンドピース! フォーッ!!」みたいな感じで乗るのが、ジェットスキーだと思っていました。

 

それがまさか、「海最悪! 夏終われ! デス! デス! デス! ゼェゼェ! ヒュコーッ!!」と、真っ青なくちびるで一文字も発せず肩で呼吸をしながら乗ることになるなんて。そんな人生初のジェットスキーを僕は生涯忘れることはないでしょう。

 

観客群がる砂浜にジェットスキーから飛び降り向かっていく姿は完全に逆アルマゲドン。

すぐに服を身に着け「初めっから友達の応援に来ましたけど何か?」みたいな顔して浜辺で体育座り。

 

命あってこその人生だもの。

 

相田みつを先生もそんなこと言っていたはずだ。

こんな賢明な判断を冷酷にくだせるのは、南アフリカW杯の岡田監督か自分くらいなものである。あっぱれである。

 

友よ、早く完走して帰ってきてくれ。

あんなに長い二時間は後にも先にもなかった。

 

自然には抗わないのが一番です。

自然には抗わないのがいちばん。

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