スポーツに打ち込む若年層にとって、膝の痛みは決して珍しい症状ではありません。しかし、その原因は成長期特有のものから深刻なスポーツ障害まで、多岐にわたります。今回は、若年層に起こる膝の痛みと、その背景にある主な疾患について、「ゆうき整形外科クリニック」の田中先生に解説していただきました。
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監修医師:
田中 佑樹(ゆうき整形外科クリニック)
関西医科大学卒業。その後、名古屋大学整形外科教室入局。愛知医療センター名古屋第一病院(旧・名古屋第一赤十字病院)整形外科や刈谷豊田総合病院などで整形外科医としての経験を積む。2024年7月より「ゆうき整形外科クリニック」代表医となる。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定スポーツ医・認定リハビリ医。
膝の痛みで考えられる疾患
編集部
膝が痛くなるのは、どういった状態が考えられますか?
田中先生
まずは、明らかな外傷による打撲や靭帯損傷、骨折などが考えられます。しかし、これといったきっかけがなくても痛みが生じた場合は、それぞれの年齢や生活、痛みの種類や程度、検査所見などを総合的に考えて判断していく必要があります。また、「膝が痛い」と感じていても、膝以外に原因があることも考えられます。特に子どもの場合は「膝を痛がっていたけれど、じつは股関節に問題があった」ということが散見されます。
編集部
膝の痛みがあった場合、例えばどのような原因が考えられますか?
田中先生
例えば、中高年以降の人であれば「変形性膝関節症」が最も多くみられます。女性に多く、床すわりなどの生活習慣とも関連していると言われています。初期症状では、立ったり歩いたりした際の痛みや関節の動かしにくさなどの症状が特徴です。進行すると文字通り関節が変形し、手術をして人工関節にする必要が出てくるケースもあります。
編集部
一方で、若年層だとどういう痛みが多いのでしょうか?
田中先生
運動習慣の有無に関わらず起こりやすい痛みとしては「成長痛」があります。成長痛は、夜間に突然、膝や足全体が痛くなるのが特徴で、片側の膝や足に痛みが出ることが多い傾向にあります。しばらくすると自然に治まります。
スポーツをする若年層に多い膝の痛みとは?
編集部
では、運動習慣のある若年層に多いのはどんな疾患ですか?
田中先生
比較的多くみられるのは「オスグッド(シュラッター)病」です。膝蓋骨、いわゆる「膝のお皿」から数cm下の「脛骨粗面」に痛みや腫れ、熱感が生じる障害です。スポーツには欠かせない「大腿四頭筋」、いわゆる太ももの筋肉を長く使いすぎると起こります。オスグッド病は成長痛と混同されがちですが、全く別の疾患です。
編集部
ほかには何かありますか?
田中先生
バスケットボールやバレーボールなど、繰り返しジャンプをする競技の選手であれば「ジャンパー膝」も多くみられます。ジャンパー膝も筋肉の使いすぎで起こるのですが、オスグッド病とは部位が少し異なります。オスグッド病は脛骨粗面で起こる一方で、ジャンパー膝は膝蓋骨の周囲で起こります。
編集部
色々あるのですね。
田中先生
また、稀ではありますが、脛の骨が「疲労骨折」することも考えられます。骨折と聞くと、突然強い痛みが生じて歩けなくなるイメージがあるかもしれません。しかし、疲労骨折は走ったりジャンプしたりして小さな力が繰り返し加わることで、少しずつ骨に亀裂が入って生じます。
編集部
どのようなスポーツが膝に負担をかけやすいのでしょうか?
田中先生
サッカー、バスケットボール、バレーボール、ランニング、ラグビーなど、ジャンプや急な方向転換、接触が多いスポーツは膝に負担をかけやすいです。また、長距離走も小さな負担が蓄積しやすいですね。
配信: Medical DOC