眠りに関する最新知識を睡眠外来の先生にインタビューしました。ちまたにあふれる噂や常識って、意外と古いままなのかも!? ここで最新の研究に基づいた正しい知識を得て、よりよい睡眠時間を過ごす手段を身につけてみてください。
監修:井坂奈央先生
埼玉医科大学医学部医学科を卒業後、東京慈恵会医科大学(耳鼻咽喉科)にて勤務。日本睡眠学会医。睡眠時無呼吸症候群を専門とし、男性にとどまらず女性・小児と数多くの診療を経験。2022年9月よりDクリニック東京ウェルネスに入職し、現在に至る。
「22:00−02:00 =ゴールデンタイム」ってまだ信じてる?
「ゴールデンタイムというのは、重要な成長ホルモンが盛んに分泌される時間帯のことを指します。これまでは22:00〜2:00ごろというのが定説で、なるべくそのあいだに寝たほうがよいとされてきましたよね。ただ最近では、何時に寝ても最初の90分がゴールデンタイムというのが新常識に。なので、今日もまたあの時間帯に寝られなかった! とストレスを感じることからはフリーになっていただいて大丈夫です。ただ、入眠から90分間の睡眠の質によって、成長ホルモンの分泌量に差が出るということを同時に知っておくといいでしょう」(井坂先生)
実際、睡眠不足って何が問題?
「細かくはいろいろとあるのですが、大きなところで言えば成長ホルモンが上手く分泌されにくくなるため、代謝に影響を及ぼして太りやすくなってしまったり、糖尿病のリスクが高まるといった、生活習慣病を引き起こしやすくなるといわれています。また同じく女性ホルモンの分泌もとどこおってしまい、美容面にも悪影響が。本当に睡眠不足かどうかは、1日問題なく働けるかどうか、眠ったことで一応疲れが取れているかどうかを指針にするのが分かりやすいかもしれません。ちなみに、夕方の16:00ごろや食後に眠くなるというのは生物学的には正常な現象なので、社会生活に悪影響を及ぼしていなければ問題はないかと思います」(井坂先生)
入眠に必要な要素とは?
「睡眠に誘われるときというのは、内臓や脳などの深部体温が下がってくるときなんですね。なので、いかに上手に体温を下げるかが寝つきのよさのポイントに。よく赤ちゃんはからだが温かくなると眠くなっているサインと言われますが、それはまさに体温を上昇させることで熱を放出し、深部体温を下げているのです。大人の場合は、寝る前にお風呂に入ると寝つきがよくなる、と言われますが、原理は同じ。一度入浴で深部体温を上げると、あとは自然と下がるため、入眠しやすくなるのです。ただ、下がるまでに90分ほどかかるため、すぐに寝たい場合はサッとシャワーで済ませたほうが得策です」(井坂先生)
投薬よりも生活習慣が睡眠を整える
「よく不眠が原因でクリニックにいらっしゃる患者様は、薬を出してとおっしゃる方が多いのですが、実は生活習慣を整えたほうが不眠解決に効果的というデータが出ているんです。それは例えば寝る2時間前からはケータイを見ない、運動をする、朝同じ時間に起床するといったこと。もし読者のみなさんで不眠に悩んでいる方がいたら、まずは日々の生活から見直してみてください。また、サプリなどは中毒性はないにしろ、摂取のし過ぎもよくないので、適宜取り入れるのがいいですね」(井坂先生)
「疲れているのに眠れない」は運動で解決
「不眠の原因はいろいろですが、現代人で一番多いのは頭が疲労してしまっていることが関係しています。脳は疲れてオーバーヒートしてしまうと逆にスイッチがオフにならず、興奮状態におちいってしまい寝るモードになりにくくなってしまうんです。そうなると夜中に目覚めてしまったり、早朝覚醒といって朝早く目が覚めてしまうことにも。そんな人に有効なのが、運動をしてフィジカルの疲れを利用して眠ること。可能であれば深部体温が一番ピークの夕方〜20:00ごろに運動をして、体温をさらに上昇させておくと、より自然に体温が低下しやすくなるのでスムーズな入眠を助けてくれるはず」(井坂先生)
「長く眠れても寝た気がしない」現象はなぜ起きる?
「睡眠というのは浅いノンレム睡眠から、深い睡眠になり、夢を見るレム睡眠という流れを繰り返しているんですが、例えば深い睡眠のタイミングで起きてしまうと、長時間寝たとしてもどこかボーッとしてしまい、なんだかスッキリしないという状態に。「昼寝は短いほうがいい」と言われる理由もこのためで、浅い眠りのときに切り上げるほうが効果的だからなんです。また、平日眠れないからと、週末に寝だめをして遅い時間に起きてしまうと、時差ボケ状態を自ら生み出してしまうことに。長く寝たいのであれば、起きる時間はなるべく同じにして、就寝時間を前倒しすることをオススメします」(井坂先生)
なぜ悪夢を見るのか、夢に関しては未だ謎だらけ
「夢というのはいまだ解明されていないことが多く、不眠との関係について言及しにくいのが現状です。もちろんストレスによって悪夢を見るという場合もありますが、そうでないことも。とはいえ見ている本人でさえも記憶があやふやだったりするものなので、客観的に判断したり科学的に解明することは難しいとされています。夢は見たことを覚えているかいないかだけの違いなので、夢を見たからといって睡眠の質がよい悪い、ということはありません」(井坂先生)
脳のスイッチをオフにする自分なりのナイトルーティーンを
「脳を興奮状態から睡眠へと切り替えるために効果的なのが、自分なりの入眠スイッチを持っておくこと。マインドフルネス(瞑想)でもいいですし、結末を知っている本を読んだり、音楽を聴いたりするのもいいです。私の場合は自然と寝られてしまうタイプではありますが、お風呂に入ったあとに好きなハーブティーを飲んで、脚をマッサージ機でほぐして……という流れが定番です。みなさんもご自身が、これで私は眠りにつく! というルーティーンを設定し、自分自身で脳を騙すという作業をやってみてください」(井坂先生)
明るさ、湿度が快適な眠りを左右する
「あまりに暑かったり寒かったりすると当然眠りに悪影響を及ぼすのは想像できるかと思いますが、人によって快適な温度は違うとはいえ、大体24〜26度の25度前後あたりが理想的と言われています。同時に湿度も重要で、50%前後を目安にしてみましょう。また、部屋の明るさも大切。20〜30ルクス(10m先の人の顔や行動が認識できて、誰かが分かるていど)以下がよいと言われています」(井坂先生)
眠りを計測する便利アイテムを活用する
ウエスト部分に挟み込むだけでOK。睡眠研究による蓄積データを基に、アプリと連動させることで睡眠の深さや寝返りの頻度などの可視化が可能に。ブレインスリープ コイン¥8,800(ブレインスリープ)
「実際に自分の睡眠が良質かどうかを測るのは難しいもの。医学的にはこうですよと言っても、本人の体感と一致しないことも。また睡眠誤認といって、本人は眠れていないと感じているのに、調べてみると十分な睡眠を取れている場合もあるんです。その誤差をどう埋めていくかが重要になるのですが、まず自分の睡眠状態を知るために、デバイス等を利用することもオススメです」(井坂先生)
text:KAZUKO MORIYAMA illustration:YUKO SAEKI styling:ERINA KAWASE
otona MUSE 2024年9月号より
配信: オトナミューズウェブ
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