さて、皆さんは老子をご存じでしょうか。知っているような気もするけど、くわしくは……。という方のために端的に。
「ろうし〔ラウシ〕【老子】中国、春秋戦国時代の楚の思想家。」(引用元:コトバンク)
要するに老子とは、紀元前の中国の思想家です。しかし、その教えに難解すぎるものはなく、彼が説いたのは「無知無欲」。つまり、欲を持ちすぎることや、人と比べてしまうのはよくないよね、というものでした。SNSが発達した現代社会では、いつも以上に隣の芝が青く見えてしまうもの。そんな、自分を見失いがちな世の中にもフィットするのが、紀元前に老子が説いた教えです。今回は、心をフッとラクにしてくれる老子の教えと言葉10選をお届けします。
そもそも老子が説いた「無知無欲」とは?
人は、知らなければそれを欲しいと思うこともありません。知ってしまうからこそ欲しくなってしまうもの。ものでも知識でもお金でも、増えるほど欲しくなり、不幸になるというのが老子の考えです。 「知らない方が幸せ」と説きつつも、老子は知ることを否定してはいません。「知ることで欲につながる」ことをよくないと説いたのです。ゴッホの名画『ひまわり』が死後高く評価されたように、世間の評価は「時間が経たてば変わるもの」と老子は紀元前に喝破していたのです。そんな移り変わる価値観に振り回される人生を送らないように、老子は「無欲」に生きることを説きました。
その❶「今の自分に満足する。それが幸せに生きるコツ」
十分にものを持っていても「まだ足りない」と思ってしまうのが人間です。そして「もっと手に入れるためには、もっとがんばらなければ」と考えてしまうものですが、今あるものや、がんばった自分に満足しようというのが老子の考え方です。実際の暮らしで、足りないもの、欲しいと思うものがあるかもしれません。しかし、生活に必要なものは、きっともう、持っているはずなのです。
その❷ 「あれこれと欲ばる心を捨てればラクになる」
多くのものを手に入れたい、少しでも高い地位を得たい。そういった欲望は、心を疲れさせてしまうだけです。争いも盗みも欲望があるから起きることで、欲望を捨てれば誰もが安らかに暮らしていける、と老子はいいます。何かを手に入れれば「もっと」と思ってしまうのは誰にでもあることですが、それがかなっても「もっともっと」となりがちです。残念ながら、人間の欲望にはきりがないのです。
その❸ 今の生活も悪くないと肯定することから始まる
「もっと」と欲しいものを求め続けるよりも、今あるものに満足する、今あるものに感謝する。そんな毎日の方が、ないものを求める生活よりも、ずっと幸せに過ごせるはずです。今の暮らしをよくないと思うのは、他の人の生活と比較し、うらやましいと思っているからです。まずは、他人と比較し、不満に思うことをやめてしまいましょう。今の暮らしで満足していることもあるはずです。満足していることを数える方が、ストレスの少ない毎日を送れます。
その❹ 策略とかは考えないでそのままの方がいい
何もしないことで世の中を治める。何もしないでいることで、かえって世の中を治めることができる、という老子の思想です。ムダをなくし、特別なことはしない。あるがままに任せて何もしないでいる方が、意外とうまくいく。それが老子の教えなのです。何かを成し遂げようという時は、作戦や策略などを考えない。うまくやろうとは決して考えず、ありのままの自然体でものごとに対処する方がうまくいくものです。ウケを狙ったものの、すべってしまうこともありますが、ウケを狙わなければ、すべることもなかったのです。
その❺ 無欲で穏やかなら自然とバランスは取れていく
現代はネット全盛です。インフルエンサーと呼ばれる人たちが、多くの人々の考え方や生き方に大きな影響を与えています。豪華な暮らしをアピールする人も、シンプルで穏やかな暮らしを発信する人もいます。どちらが好みかは人それぞれ。広い部屋に住みたい人がいれば、寝起きするスペースがあれば十分と考える人もいます。狭い部屋の方が快適に過ごせるのであれば、無理して広い部屋に住む必要はありません。身の丈に合った生活をすればいいのです。人間は欲を持った生き物です。居心地の悪い部屋で暮らせというわけではありません。身の丈以上の暮らしではなく、背伸びしない等身大の暮らしを心がけましょう。
その❻ いつだって最高の気分! とはいかないのが人生
老子は今あるものに満足しようと語りました。学生時代は学力、社会に出れば売上など、成績を競い合うことの多い現代社会。成績が悪くて肩身が狭いというのは、誰でも思うことです。考え方を少し変えてみると、成績が低いほど、伸びしろがあるということ。無理のない範囲で努力をし、成長を感じることができるのであれば、幸せなことです。一方、トップの人は、今より上に行くことはできませんし、その状態を保ちたいと思うあまり、追い越されることを恐れる気持ちが生じてしまうものです。這い上がろうと必死になったり、落ちないようにしがみついたりしても、無理をしていたら、心にひずみが生じてしまいます。がんばりすぎず、フラットな気持ちでいる方が、楽しい毎日を送れます。
その❼ よけいなことは考えず子どものころの純粋な心で
老子はムダな知恵を働かせないことが何より大切だともいっています。老子は、知恵も知識もない純粋な子どもの姿に、理想的な人間を見たのです。小さな子どもには、お金のことなど生活に関する悩みは一切ありません。よけいなことを考えず、目の前の事象の一つひとつにただ向き合います。心の余白には、お金や煩わしい人間関係ではなく、趣味や好きなものを入れておきましょう。
その❽ 自分のことは自分だけがわかっていればそれでいい
知識や持ちものを自慢したい、人より上に立ちたい、他人から評価されたい。そう思ってしまうのが、人間です。しかし老子は、そんな態度はカッコ悪いといいました。自分のことは自分自身で理解し、その上で自分自身を認められればいいのです。自分のことを慈しみ、大切にすることは、生きていく上でとても重要なこと。しかし、人より上に立ちたいという思いは、慈しみの心ではなく、プライドの問題で、自己評価とは別次元の話なのです。プライドではなく慈しみの心で、自分を満たしてみましょう。他人からの評価が気にならなくなってくるはずです。
その❾ 晴れの日もあるし雨の日だってある
雨や風ですら長くは続かないのだから、人間の行為など、長く続くはずがない。だから自然な生き方をしよう、と老子はいいました。うまくいかないことに悩み、よかれと思って取った行動が、裏目に出てしまうことだってあります。そんな時は、晴れの日も雨の日もあるように、悪い状態も永遠に続くことはないと考え、状況が好転する日を静かに待ちましょう。待っている間は、できるだけおしゃべりを慎み、沈黙を守るようにしましょう。悩みやグチも、不平や不満と紙一重です。相手によっては、不誠実な人だと思われてしまう危険性があります。言葉だけではなく、行動で誠実さや勤勉さを示し、信頼してもらえるように努めましょう。
その➓ 何とかしないと!なんて思わなくていい
人間は、考えたくないことほど考えてしまう生き物です。だから自分のことを考えなくてすむよう、他の人のサポートを買って出て、自分のことを考えないようにしてしまうのです。遠回りに見えますが、うまくいっていないことを考えなくてすむだけでなく、感謝の言葉が贈られるはずです。私利私欲ではなく、協調性のある優しい人だと認識されるはずです。その時に自分のストレスや不満を吐き出さないこと。老子はできるだけ黙っているようにと、沈黙を推奨しています。
たくさん吸収してたくさん前に進んで! という姿勢を否定するものではなく、あくまでも「欲」の恐怖というものでした。その考えにフッと力が抜けるような感覚があったのではないでしょうか。この本は『心がフッと軽くなる 老子の言葉 (TJMOOK)』から抜粋しています。このほかに5章ある全6章の読み応えのある一冊です。老子の考え方についてもより深く記述されているので、ぜひ手に取ってみてください!
『心がフッと軽くなる 老子の言葉 (TJMOOK)』¥891
illustration:KARASHISOERU
otona MUSE R
配信: オトナミューズウェブ
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