7、帰宅恐怖症の夫から離婚を切り出された場合の対処法
(1)離婚したくない場合の対処法
帰宅恐怖症になってしまった夫から、離婚を切り出された場合は、どのように対応するのがよいのでしょうか。
帰宅恐怖症だけを原因として裁判所が離婚を認める可能性は少ないでしょうから、妻が離婚をしたくない場合は、離婚に応じない限り、離婚に至ってしまうことは少ないでしょう。
ただ、帰宅恐怖症そのものに対する対処を行わないと、症状が悪化し、夫がほとんど家に帰って来なくなったり、別居に至ったりする可能性があります。長期間の別居等は、「婚姻を継続しがたい重大な事由」として、裁判所が離婚を認める一つの理由になってしまう可能性がありますから、離婚をしたくない場合は、まず帰宅恐怖症を改善すべく妻も努力をすることが必要といえます。
(2)条件によっては離婚してもよい場合の対処法
①慰謝料を請求することはできるか
帰宅恐怖症の夫から離婚を切り出されたときに、条件によっては離婚しても良い、と妻が考えている場合はどのように対応すべきでしょうか。
夫が帰宅恐怖症になったからといって、それが、即、慰謝料を請求する理由にはなりません。しかし、前述のとおり、帰宅恐怖症だけを原因として裁判所が離婚を認める可能性は少ないことから、妻が離婚を渋った場合、離婚に同意してもらうための条件として、夫が一定の慰謝料の支払いの提示をすることは十分考えられます。
②財産分与、年金分割
夫が帰宅恐怖症になったことを原因として離婚する場合であっても、財産分与や年金分割に関しては、さほど影響を与えず、通常の離婚の場合と同様に扱われます。
③親権
夫が帰宅恐怖症になってしまっている場合は、あまり家に帰ってきていないのですから、子供との関係も良好ではない場合が多いと思います。ただでさえ、未成年の子の親権に関しては、母親側が有利なことが多いうえに、あまり家に帰ってきていないという事情は、夫が未成年の子の親権を取得するには不利といえるでしょう。
④面会交流
離婚後の未成年の子と父親との面会交流は、父親が暴力を振るう可能性があるような場合でない限り、積極的に行うべきというのが近年の法律や裁判所の考え方です。
ですから、夫が帰宅恐怖症になってしまっていても、面会交流が制限される理由にはなりにくいといえます。
⑤婚姻費用、養育費
離婚に至るまでの婚姻費用や、離婚後の未成年の子に対する養育費については、夫が帰宅恐怖症になっているかどうかという点はほとんど影響がないと考えられます。
8、帰宅恐怖症の夫と離婚する方法
(1)夫が離婚に応じる場合
逆に、夫が帰宅恐怖症になったことを理由として、妻から離婚を求める場合はどうでしょうか。夫が離婚に応じる場合は、協議離婚という形になりますから、通常の場合とさほど変わらないといえます。
帰宅恐怖症になっているということは、妻のいる家に帰りたくないという心理的状況にあることから、むしろ離婚に積極的に同意してくれることも少なくないでしょう。
(2)夫が離婚に応じない場合
前述のように、夫が帰宅恐怖症になったことを理由に、裁判所が離婚を認めることは少ないと思われますから、夫が離婚に応じない場合は、離婚するのは難しいと思います。
ただ、夫が長期間家に帰って来なかったり、別居が長期間にわたっているような場合は、それが、「婚姻を継続しがたい重大な事由」と判断されて、裁判所によって認められる可能性がないわけではありません。
ただ、夫が帰宅恐怖症になってしまった原因には、夫に対する妻の言動にもその要因がある場合が多いというのは前にも述べたとおりです。
そして、妻の夫に対する言動があまりにも酷い場合は、夫に対するモラハラと認定されて離婚が認められなかったり、逆に夫から慰謝料を請求されたりする理由にもなりかねません。
ですから、夫の帰宅恐怖症を原因に妻が離婚を求めてそれが認められる場合というのは、まず帰宅恐怖症を改善すべく妻が一定の努力をし、それでも夫の症状が改善せず、夫婦として共同生活をしてくのが難しく、離婚をするのもやむを得ないと裁判所が判断するような状態にある場合といえるでしょう。
まとめ
夫の帰宅恐怖症は、夫だけの問題でも妻だけの問題でもありません。ただ、共働き夫婦が増加し、家事や育児を行う夫も増えてきたとはいえ、やはり「家庭の色」は妻によるところが大きいのもまた事実です。
ですから、夫が帰宅恐怖症にならないように、また、帰宅恐怖症になってしまったときは、まず、一番近くにいる妻の役割が大切です。自信や居場所を失った夫を救うことができるのは妻だけといっても過言ではないでしょう。
そして、帰宅恐怖症は、一種の病気であることを理解し、その改善に向けて夫婦がしっかりと話し合いをすることが大切です。解決まで時間もかかることもあるでしょうし、ぶつかることも、虚しくなることもあるかもしれません。
それでも一度は愛し合って夫婦となったのですから、それもまた人生と考え、居心地の良い家庭を夫婦で協力して作っていくことも価値があるのではないでしょうか。
そのような努力をしてもなお、夫婦として家族として生活していくことが難しい時には、離婚という選択肢を取ることもやむを得ないでしょうし、二人で努力してもどうしようもない、別々の人生を歩んだほうが双方のためになるという判断に至った場合には、かえって、離婚することについてはあまり揉めずに合意することができるのではないかと思います。
監修者:萩原 達也弁護士
ベリーベスト法律事務所、代表弁護士の萩原 達也です。
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また、所属する中国、アメリカをはじめとする海外の弁護士資格保有者や、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも当事務所の大きな特徴です。
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