7、産後うつ、産後クライシスと離婚に関する法的問題
ここでは、産後うつ、産後クライシスと離婚に関する法的問題について解説していきます。
(1)産後うつ、産後クライシスを理由に離婚は認められるか
産後うつ、産後クライシスを理由に離婚は認められるのでしょうか。
夫婦で協議して離婚を決めたのであれば、当然、離婚することはできますが、一方が離婚したいが、もう一方が離婚したくないという場合に、産後うつや産後クライシスを理由に離婚裁判を起こして、離婚が認められるかということについて説明します。
妻が産後うつであることを理由に離婚をすることはできません。
産後うつはうつ病の一種であり、妻が病気であれば夫には療養看護する義務があるからです。
ただし、産後うつが原因で婚姻関係が破綻し妻から夫に離婚請求した場合には、離婚が成立するケースはあります。
妻が産後うつであるにもかかわらず、夫が協力しなかったり、産後うつに対して不理解であったりして、夫婦の協力義務を果たさず、その結果、夫婦関係が破綻して回復の見込みがないことを理由に離婚に至るケースです。
産後クライシスについても同様で、やはり産後クライシスそのものを理由とした離婚の請求は裁判で認められにくいでしょう。
しかし、同様に、夫婦関係が破綻して回復の見込みない場合は認められるケースがありえます。
(2)慰謝料は認められるか
慰謝料とは、精神的な苦痛などの精神損害に対する賠償金のことです。
離婚による慰謝料の場合は、離婚原因に該当する有責行為をした者に支払い義務があります。
例えば、夫が妻に暴力を振るったり、夫が不倫をしていたりしたケースでは、妻は夫に慰謝料を請求することは可能ですし、産後離婚の場合も夫婦の協力義務を怠って夫婦関係を回復困難なほどに破綻させた原因が夫婦の一方(産後離婚の場合、通常は夫)にあるなら、原因を作った方に対して、もう一方が慰謝料を請求することはできます。
なお、夫婦関係が破綻した原因が双方に等しく存在する場合や、どちらかに原因があって破綻したわけでなく、協議して離婚を決めた場合等は、慰謝料を請求することは難しいでしょう。
(3)離婚時に決めておくべきこと
離婚時に決めておくべきことをご紹介します。
①親権
親権とは、未成年の子を監護、教育する親としての権利のことで、離婚した場合は、どちらか一方が産後離婚のように子供が幼い場合には、母親が親権を持つことが多いのですが、母親が育児に問題があるほど精神的に不安定な場合等、子供にとって父親に育てられた良いと思われるケースでは父親が親権をもつこともあります。
②面会交流
面会交流とは、離婚後、子供と一緒に住んでいない方の親が、子供と会うことです。
親の権利でもありますが、子供の権利でもあります。
③養育費
養育費とは、文字通り、子供の養育のための費用のことで、離婚後、子供を養育する方が、もう一方に対して請求することできます。
④財産分与
財産分与とは、婚姻期間中に築いた夫婦の共有財産を、寄与度に応じて按分することです。
産後離婚でも財産分与は当然認めらますが、婚姻期間が短ければそれほど多くの夫婦共有財産はないことが多くため金額は少なくなるでしょう。
⑤年金分割
年金の受給額は納めてきた年金保険料の金額や期間に比例します。
ですので、専業主婦の場合など、夫婦間の収入に差があって、その結果、納めてきた保険料にも差がある場合、離婚後、もらえる年金の額にも差が生じ、不公平感がありますので、その解消のため、納めてきた年金記録を夫婦間で平等に分割することです。
もっとも、産後離婚の場合は、婚姻期間が短いことが多いでしょうから、年金分割のインパクトはそれほど大きいものではないでしょう。
⑥婚姻費用
婚姻費用とは、夫婦の主に収入が多い方が少ない方に対して渡す生活費のことです。
たとえ、別居していても、離婚裁判中であっても、離婚成立までは負担する義務があります。
(4)ひとり親支援の公的制度
産後離婚によりシングルマザーになった場合には、ひとり親支援の公的制度を積極的に活用しましょう。
例えば、児童扶養手当、児童手当、児童育成手当などがありますが、役所に問い合わせれば詳しいことを教えてくれます。
8、産後クライシスで離婚しないための対応方法
産後クライシスで離婚しないための対応方法を、女性と男性に分けてご紹介します。
(1)産後クライシスへの女性の対応方法
①ママ友と会話する
ママ友と会話することで、同じような不満や悩みを吐き出せて、すっきりとした気分になります。
共感できる会話をすることで、ストレスの発散させることが大切です。
②感情をコントロールする
夫に不満があっても感情的にならないようにコントロールしましょう。
ヒステリックに言われると、夫も気分が悪くなり感情的になることもあります。
冷静に話すように心がけましょう。
③家事・育児を一人でしない
一人で家事や育児をしないようにします。
夫といっしょにするのがベストですが、忙しいようでしたら実家や民間のサービスを利用するといいでしょう。
こうすることで、時間的な余裕が生まれます。
④夫をほめる
家事や育児を夫が手伝ってくれたら、必ず感謝の気持ちを伝えます。
うまくできなくても不満を言わずに、さりげなくアドバイスする程度にとどめておきましょう。
⑤夫とスキンシップをする
夫婦生活ができない場合、夫に理由を話して説明します。
その代わり、手をつないだり、マッサージをしたりしてスキンシップを欠かさないようにしましょう。
(2)産後クライシスへの男性の対応方法
①妻の一人の時間を確保する
短時間でもいいので夫が子供の面倒を見て、妻が一人でいられる時間を作ってあげましょう。
例えば、妻が一人でショッピングへ行く時間だけ、夫が子供の相手をしたりします。
②育児はいっしょにするものだと考え方を変える
育児は妻の仕事という考えから、夫婦がいっしょにするものという考え方に変えましょう。
夫は自分から進んで育児をすることが大切です。
③女性ホルモンの変化への理解を深める
妊娠してから産後にかけては、女性はホルモンバランスが崩れてしまうのです。
これを女性自身でコントロールするのは難しいということを理解しましょう。
④夫婦生活に対する理解
育児をしている女性は睡眠時間も少なく、疲れ切っています。
ホルモンバランスも崩れて、性欲もほとんどありません。
そのことを考慮して、夫婦生活の要求を控えるようにしましょう。
まとめ
産後離婚は、夫婦が理解し合うことで回避できるものです。
夫婦の関係が危機的状況になったとしても、ネガティブになったり、あきらめたりしないでください。
お互いを理解し、前向きに対処していくことが大切です。
この記事が、出産を控えたご夫婦の方のお役に立てれば幸いです。
監修者:萩原 達也弁護士
ベリーベスト法律事務所、代表弁護士の萩原 達也です。
国内最大級の拠点数を誇り、クオリティーの高いリーガルサービスを、日本全国津々浦々にて提供することをモットーにしています。
また、所属する中国、アメリカをはじめとする海外の弁護士資格保有者や、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも当事務所の大きな特徴です。
萩原弁護士監修 :「離婚」記事一覧
萩原弁護士監修 :「労働問題」記事一覧
萩原弁護士監修 :「B型肝炎」記事一覧
萩原弁護士監修 :「刑事弁護」記事一覧
萩原弁護士監修 :「企業法務」記事一覧
萩原弁護士監修 :「遺産相続」記事一覧
萩原弁護士監修 :「アスベスト」記事一覧
配信: LEGAL MALL
関連記事: