鮎釣りでも知られている宮崎県の「一ツ瀬川」は現在禁漁期間中だが、釣り人で賑わっている。果敢にフライを追い、フッキングすれば渾身の力で逸走遁走しジャンプして訪れる釣り人たちを喜ばせてくれるのはニジマスだ。そう、期間限定の冬季釣り場である。現在尺超えの個体も多く放流されており、オフシーズンの憩いの場となっているのだ。そんな楽しい釣り場を訪れてみた。
今季のフライ仕舞いとして<西米良村冬季ニジマス釣り場>で虹を追う
立冬、久しぶりに師匠との釣行である。行きの道中、師匠が今年の目標を聞くので「去年が十だったので今年は十一」と答えた。この一年、師匠の指導宜しきを得て成長したその証として、昨年を上回る数字を言ってみた。
朝一番乗りだったが、すぐに釣り人が湧いて来て思い思いに渓に降りて行く。さて、こちらも準備をして渓を下る。師匠はと言えば、まだゆったりコーヒーを飲んでいる。9フィート3番に4番ラインを背負わせる。ロッドは伝家の宝刀「R.L.W」。大事にしすぎて年に一回、ここでしか使わないようになってしまった。5Xリーダー9フィート、5Xティペット矢引分。
フライは「ピーパラ14番」。野鳥がピーピー鳴いて、わずかだが羽虫がパラパラ飛んでいたのでピーパラ、というふざけたチョイスなんかじゃ絶対ない。ミッジでもないし、真夏のEHCでもない。だったらピーパラしかない、という積極的な消去法である。
今年、何を選んでも魚に喜んでもらえなくて、ややプラトー状態だったけれど、師匠が言うには、上達途上の誰もが突き当たる〝フライの壁〟だという。フーン、古稀を過ぎたジーチャンでもまだ伸びしろがあるということか。
ドライフライで残された瀬に潜む虹を狙う
下流の禁漁区ギリギリの、先行の釣り人が捨てていった瀬を拾うように釣ることしか出来なくて、午前中はその残された範囲から一匹掛けることが出来ただけだった。あらかじめ聞いていた、尺をちょっと超える大きさである。
真ん中を通していると魚がフワリと浮いて来たが、何が嫌だったのか、首を横に振ったかと思うと「サッ」と底に消えた。でもドライを追った、それで何度か抛って左岸の岩陰を流した時にようやく喰ってきたのだった。
昨年より、狭く流程が区切られて一層釣堀になってしまった川に、禁漁期の手慰みにと近郷近在から釣り人が押し寄せてくるので、魚の方も目ん玉と側線の隅々までビンビンに神経を通わせて水面から伝わる音や影を細やかに見定めていると思われた。それでも魚が現れてフライを追って、喰って、そしてこちらは掛けて。その一部始終が釣り人のものとなるのがドライフライの醍醐味なのである。
さてと釣り上がろうとすると、他の釣り人とバッティングしてしまう。魚だけでなく人も手強そうだ。駐車場下のプールのポイントまで来て「おーい」と呼ばわる声に振り仰ぐと、師匠が手招きしている。上がって休憩だ。
もう立冬なのに森は緑に黄色が滲んでいる程度で、季節は緩慢に巡っている。魚は自然と乖離のしようがないので、遅い秋にかえって活き活きと動かされているのは、先の一匹との闘いぶりから分かった。ニジマスらしい派手な跳躍もあったし、縦横に逸走遁走して楽しく困らせてくれた。
配信: 釣りビジョンマガジン