武尊、うつ病で限界「死んでもいいと思った」世界王者が復活を目指す現在の姿

武尊、うつ病で限界「死んでもいいと思った」世界王者が復活を目指す現在の姿

うつ病は日本人の15人に1人が一生のうちに一度は発症すると考えられており、誰にでも発症するリスクがある疾患です。うつ病の原因として、脳内においてやる気や精神安定の源となる神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンが減ってしまうことで無気力や憂うつな状態が引き起こされるという説が有力ですが、うつ病を発症したときにどのように向き合えばいいかについて知っている人は少ないと思います。そこで今回は、実際にうつ病を発症し現在も闘病中であるプロ格闘家の武尊さんと精神科医である岡琢哉先生に、うつ病との向き合い方について対談していただきます。

>【動画】世界王者・武尊「うつ病」休養明けた現在の姿

インタビュー:
武尊(プロ格闘家)

1991年7月29日生まれ、鳥取県出身。AB型。K-1選手にあこがれ、小学2年生で空手を始める。2011年にプロデビューを果たし、2014年にはついにK-1出場の夢を実現。2015年初代K-1スーパー・バンタム級王座決定トーナメント、2016年初代K-1フェザー級王座決定トーナメント、2018年第4代K-1スーパー・フェザー級王座決定トーナメントを制し、K-1史上初の3階級制覇王者に輝く。2023年にはONEチャンピオンシップとの契約を発表。

監修医師:
岡琢哉(精神科医)

岐阜大学医学部卒業後、羽鳥市民病院にて初期研修を修了。岐阜大学医学部附属病院精神神経科、東京都立小児総合医療センター児童思春期・精神科、医療法人社団神尾陽子記念会発達障害クリニック(現:神尾陽子クリニック)、岐阜大学医学系研究科博士課程を経て現職。株式会社カケミチプロジェクト代表取締役。NPO法人カケルとミチル理事、医療法人社団あやなり理事。

岡先生

現在、体調で困っていることはありますか?

武尊さん

体調は安定していると思います。完治とまではいきませんが、今では病気との付き合い方もうまくなって、自分で体調やストレスへ対応できるようになりました。

岡先生

付き合い方ってすごくいい表現ですね。最初に症状を感じたのはいつ頃でしたか?

武尊さん

高校生の頃だと思います。その頃、精神疾患は性格的に暗い人や気持ちの弱い人に発症するイメージがありました。自分は小さい頃から活発でクラスの中でも明るく、気持ちも強いと思っていたので、まさか自分がそういう病気になるとは想像もしていませんでした。

岡先生

突然自分の身に起きると驚きますよね。

武尊さん

なんでこんなに元気がなくなるのだろうとびっくりしたのを覚えています。自分が病気になってみて、誰にでもうつ病になる可能性があるのだと実感しました。

岡先生

そのとおりですね。うつ病になりやすい性格や体質はあるのですが、それに環境からのストレスが加わることで発症することも知られており、誰でもうつ病になるリスクがあります。

武尊さん

ストレスがうつ病の原因だということですか?

岡先生

もちろん、ある程度のストレスは成長や変化にとって大切ですが、それが過剰になることで苦しくなってしまう人が多いと思います。

武尊さん

私も完璧主義で、試合に向けて練習量や減量などの目標をクリアできずに自分を責めてしまうことがありました。それで自分の許容範囲を超えてしまっていたのだと思います。

岡先生

目標だけを追い求めると自分の体に気が回らず、追い込み過ぎてしまうリスクがあることは知っておいてほしいですね。発症当時、助けになった存在はありましたか?

武尊さん

当時は自分の弱みを見せてはいけないと思い、心配もかけたくなかったのでジムのチームメイトや会長、家族にも言えず、助けになった存在はありませんでした。

岡先生

話せる相手や話す場所がないと苦しいですよね。

武尊さん

そうですね。逃げ場がなくなる感覚はありました。その感覚がパニック障害を発症した原因にも関わっていると感じたので、家族や友達など信頼し理解してくれる存在を見つけることで気持ちが軽くなると思います。

岡先生

逃げ場がない環境はパニック発作を起こしやすい状況の一つです。電車も逃げ場がなくなる感覚を感じやすい場所で、これが原因で電車に乗れなくなる人も少なくありません。また、パニック障害の場合は、安心できるはずの場所でも発作が起きることもあるため、いつ発作が起きるのかという不安を感じる人も多いようです。武尊さんはいかがでしたか?

武尊さん

そうですね。最初はテレビのスタジオで発症したのですが、スタジオにある大きな鉄扉を閉められた瞬間に逃げ場がなく恐怖を感じて、冷や汗が出てきました。それからは車や飛行機にも乗れなくなり、自分の家でも安心できず夜中に外出することもありました。本当に安心できる場所でも毎日発作が出ていたので、きつかったですね。

岡先生

苦しいですよね。約57%の人がうつ病とパニック障害を併発すると考えられており、うつ病とパニック障害の症状が同時に出る時期は特につらいと思います。

武尊さん

そうですね。

岡先生

うつ病の症状がひどかった時期の話を聞かせていただけますか?

武尊さん

高校生の頃は、過食と睡眠障害がひどかったですね。おなかは苦しいはずなのに、どれだけ食べても満たされず、食べていないと気持ちが安定しませんでした。当時は試合前の減量のために食べて吐いてを繰り返し、眠れない日も続いていたので自律神経も乱れていたと思います。気力がなく一日中布団から出られずに練習や学校にも行けなくなりました。

岡先生

うつ病による体の症状では不眠や食欲の問題(拒食や過食)があり、体重が減ってしまう人だけでなく、増えてしまう人も多いですね。気分の落ち込みや意欲の低下、考え方がネガティブになってしまうこともよくあると思います。

武尊さん

普段はすごく笑うタイプなのですが、楽しさも感じられなくなって発症してから2〜3ヵ月くらいは笑えていませんでした。

岡先生

今まで楽しめていた漫画やテレビを楽しめないと言われる人も多いですね。

武尊さん

何が楽しくて生きているのだろうと疑問を感じ、死んでもいいと思ってしまうこともありました。

岡先生

つらかったですね。武尊さんが行った治療法について教えてください。

武尊さん

病院からは安定剤と抗うつ薬を処方していただいて、カウンセリングも何度か行きました。

岡先生

うつ病はセロトニンの不足が原因だと考えられているので、セロトニンが出やすくなる薬と不安を取り除く薬を使用されていたのですね。カウンセリングを受けてみてどう感じましたか?

武尊さん

最初の頃はまだ病気のことも受け入れられてなかったのでカウンセリングは行けていませんでした。

岡先生

時間が経って変化はありましたか?

武尊さん

薬を飲むことで体調が良くなり、病気が原因だったのだと実感してからは2週間に1回カウンセリングにも行くようになりました。

岡先生

薬やカウンセリングの効果が出ると気持ちも前向きになりましたか?

武尊さん

そうですね。逃げ場のない状態から光が見えてくる実感はありました。カウンセリングの言葉もしっかりと受け入れられるようになったので、少しずつですが効果は実感できました。

岡先生

症状が強いと周囲からの言葉もうまく受け入れられないと思うのですが、少しずつ受け入れられるようになったのですね。現在の症状はいかがですか?

武尊さん

今でもたまに症状は出るので、そのときだけ薬を飲むようにしています。長時間のフライトは緊張してドキドキすることもありますが、パニックにはなりません。普段の生活ではだいぶ落ち着いていると思います。

岡先生

何も知識がなく自分でコントロールできない状況が最も苦しく、怖いと思います。苦しくても薬があれば安心するように、自分で症状をコントロールできる感覚が身に付くのはすごく大事なことですね。

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