この街と5年  vol.03 神奈川県・相模原市

この街と5年 vol.03 神奈川県・相模原市

移住した地で活躍する人にフォーカスする当連載。大阪から東京、ヨーロッパを経て、相模湖近くのかつての宿場町で国産初の”アマーロ”を造る「伊勢屋酒造」の元永達也さんを訪ねました。

地元になじみながら、世界に届く薬草酒“ アマーロ” を造る

アマーロ“スカーレット”は3850円(700ml)~。レギュラー品のほか、限定品も多種発売

緑深い山々と相模湖を有する相模原市北西部。伊勢屋酒造がある緑区小原は、江戸時代には日本橋と甲府、下諏訪をつなぐ甲州街道の宿場町「小原宿」として重要な役目を担っていた地でもあります。

イタリア語で「苦い」の意味を持つハーブリキュール、アマーロ造りには、築100年の古民家を活用。大阪府出身の元永達也さんがこの地にやって来たのは、東京でのバーテンダーを経てヨーロッパの旅へ出ていた中、コロナ禍で急遽帰国し、勤め先だったバーオーナーの父親の実家に借り住まいさせてもらったことがきっかけでした。

蔵を活かしたテイスティングルーム

「山も湖も畑もあって、ヨーロッパの薬草酒の醸造所みたいな立地。空き家にしておくなんてもったいないと言ったら、『ほな、お前やってみぃ』ということになって(笑)」と、自ら醸造所を営むことになったのです。

アマーロ造りに肝心のボタニカル(草根木皮)は、耕作放棄地を活用して自身で育てたものが中心。1800年代のレシピをもとに、生のボタニカルで仕込みます。2021年には国産初のアマーロ “スカーレット”が流通開始し、高い評価を受けました。

伊勢屋酒造は街道沿いの古民家

今や、一部海外への輸出も始動し、元永さんの躍進は止まりません。今年はニューヨークで開催された世界最大規模のお酒の催事に出展しました。

「アメリカには幅広い移住者がいて、日本ではまだマイナーなアマーロというお酒も受け入れられやすい環境があります。会場で『うまい!』と評判になると、すぐに『買いたい!』という反応があり、新たにチャレンジする可能性を感じました」

愛媛県産の香り高いフレッシュベルガモットもアマーロの原料になる

海外ばかりでなく、元永さんは地元のコミュニケーションも大事にしています。「ご近所づきあい然り、地元活性化の会議や地域おこし協力隊の活動にも参加しています。大きく見ると、暮らしている街の人づきあいがアマーロの質や魅力にもかかわってくるのです」 

アマーロ造りのための収穫や果実の皮むきには、年間200人以上のボランティアがやって来ます。移住から約5年。酒造りを通して、伊勢屋酒造はローカルと都会をつなぐ場所となり、極小規模ながらも世界に向けて“ほんまもん”のアマーロを発信する場所になっています。

伊勢屋酒造

電話/042-682-0625
住所/神奈川県相模原市緑区小原681


伊勢屋酒造代表
元永達也さん

1986年、大阪生まれ。モルトバーの渋谷「Bar CAOL ILA(カリラ)」で約10年働いた後、ヨーロッパを中心に約70カ所の蒸留所・醸造所を巡り、酒販店でも経験を積む。19年、コロナ禍で急遽帰国し、「Bar CAOL ILA 」の恩師の実家の古民家に借り住まいする。20年、耕作放棄地を活用してハーブを育てながら、アマーロ造りを始動。21年、国産初のアマーロ “スカーレット”を流通開始。22年、母と妹を大阪から呼び寄せ、一緒にアマーロを生産する

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