花咲乳がんという言葉は正式な病名ではありませんが、乳房に現れる特徴的な症状からこのように呼ばれています。
直接目に見えるところに症状が出るため、花咲乳がんは肉体的な苦痛はもとより、患者さんの精神的な苦痛がより強いといわれ、そのための治療が重要な病気です。
この記事では、なぜ花咲乳がんの原因や症状のほか、具体的な治療方法などを解説します。
≫「花咲乳がんの前兆となる3つの初期症状」はご存知ですか?原因も医師が解説!
※この記事はMedical DOCにて『「花咲乳がんを発症する原因」はご存知ですか?症状や治療法も解説!医師が監修!』と題して公開した記事を再編集して配信している記事となります。
監修医師:
上 昌広(医師)
東京大学医学部卒業。東京大学大学院修了。その後、虎の門病院や国立がん研究センターにて臨床・研究に従事。2010年より東京大学医科学研究所特任教授、2016年より特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所理事長を務める。著書は「復興は現場から動き出す(東洋経済新報社)」「日本の医療格差は9倍医療不足の真実(光文社新書)」「病院は東京から破綻する(朝日新聞出版)」「ヤバい医学部(日本評論社)」「日本のコロナ対策はなぜ迷走するのか(毎日新聞出版)」。
花咲乳がんとは
花咲乳がんという病名は、乳房の特定の部位にまるで花が咲いたかのような状態で発生することから名付けられました。
乳がんのなかでもまれなタイプのがんで、診断や治療のアプローチは個人差があります。
局所進行乳がんの種類とされ正式名称ではない
花咲乳がんは、乳がんのステージがIIIA期からIIIC期にあたる局所進行乳がんの種類です。
病気の進行が早いともいわれており、できるだけ早期の治療開始が重要です。
がん性皮膚潰瘍・がん性皮膚創傷の1つとしての俗称
局所進行乳がんとは、乳がんステージIIIA期から見られる5cmを超えるがん細胞が皮膚や筋肉に浸潤したもので、がん性皮膚潰瘍・がん性皮膚創傷の1つです。
局所進行乳がんでは、リンパ節への転移も多く見られます。
進行で潰瘍ができ欠損が大きい状態を比喩したもの
皮膚浸潤による潰瘍や欠損が大きくなり、その状態をたとえて花咲乳がんと呼ばれます。
病名は美しいですが、乳がんのステージが進んでいる大変厳しい状態にあることを忘れてはいけません。
花咲乳がんの治療法
花咲乳がんは、皮膚潰瘍による痛みや悪臭が患者さんの大きな苦痛となります。
そのため、一般的な乳がんの治療のほかに、軟膏による潰瘍の治療が重要です。
軟膏を使用する薬物治療
皮膚潰瘍の治療では、潰瘍臭の原因になる菌を抑える必要があります。その治療にはニトロイミダゾール系抗菌薬メトロニダゾールが有効なことがわかっています。初期症状のカサカサした腫瘤に対してはメトロニダゾールの軟膏を、患部の潰瘍が悪化している場合はゲル状のメトロニダゾールが有効です。
また、Mohs(モーズ)ペーストという外用剤を使用した治療法もあります。塩化亜鉛を主成分としたMohsペーストは、花咲乳がんだけでなく皮膚などの体表にがんが浸潤し、出血や浸出液・悪臭といった症状が出た場合に使用されることが多い薬剤です。
Mohsペーストを使用することで、症状を緩和させて生活の質を向上させる目的もあります。花咲乳がんは、がん細胞が皮膚やリンパ節に転移している状態ですので、がん細胞を取り除く手術を可能にするためにも薬物療法を行います。
放射線療法
放射線療法は、がん細胞に高エネルギーのX線をあててがんを死滅させたり小さくしたりする目的で行われます。術後の場合は、残った乳房組織に照射します。副作用としては放射線をあてた皮膚が赤くなったり、かゆくなったりすることです。
皮膚が水ぶくれのようになることもありますが、治療を終了すれば2週間程で回復します。また、乳房に放射線をあてると乳汁を作る機能が失われる副作用もあります。
切除手術
薬物療法や放射線療法で手術が可能になれば、手術によってがん細胞を切除します。手術の種類は、乳房部分切除手術・乳房全切除手術・腋窩リンパ節郭清(切除)手術です。
腋窩リンパ節とはわきの下にあるリンパ節のことで、術前の検査でがんの転移がわかった場合は、切除する必要があります。なお、希望があれば乳房再建の手術も可能です。
ホルモン療法
ホルモン療法は、ホルモンを利用して増殖するがん細胞に対して行う治療方法です。
主なホルモン療法としては、女性ホルモンのエストロゲンの量を減らすことで、がん細胞がエストロゲンを取り込むのを妨げるというものがあります。
配信: Medical DOC