一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
* * *
元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第38回 南杏子『いのちの波止場』
まほろば診療所の看護師・麻世は、能登半島
の穴水にある病院の看護実習で「ターミナルケ
ア」について学ぶ。激しい痛みがあるのに、モル
ヒネ使用を拒絶する老婦人。認知症と癌を患
い余命少ない父に胃瘻を強要する息子。両親
の見舞いを頑なに拒む末期癌の息子。そして
麻世が研修の最後に涙と感謝と共にケアするの
は―。
皆さん、こんにちは。波止場を鳩羽と思っていたアルパカ内田です。
読み終えて涙が止まらなかった。確かな死と真正面から向き合うことは、今をどう生きるかという問いにつながる。切実な終末期医療をテーマにした本書は、超高齢化社会の必読書である。ケアをする側、される側。誰にとっても決して目を背けてはならないことで、まさに他人事ではないのだ。
舞台が風光明媚な能登半島・穴水であることにも注目したい。地元の名産、景勝地がなんと見事に物語と溶けあっているか。頭の中に浮かびあがる映像美をぜひ体感してもらいたい。そんな美しき場所も過疎化が進んで活気が失われつつある。昨今の度重なる災害が、その流れに拍車をかけていることも事実だ。この国が抱える地方の問題にも思いを寄せなければならない。
運命には抗えない。しかし命が尽きるその瞬間まで、患者本人、その家族、医療従事者はいったい何ができるのだろう。人の数だけ事情があり、価値観は異なる。生にしがみつくのか、死を潔く受け入れるのか。良かれと思ってしたことが相手を苦しめることもある。延命治療の是非の議論もそうだが、理解し合い、寄り添うことが、本当の幸せにつながるのだ。
人は誰もが確実に死に向かって生きている。だからこそ、少しでも自分らしく最期の瞬間を迎えたい。生まれる場所は選べなくても、人生の最期を過ごす場所は選べることもある。「生と死」の瀬戸際の闘いの日々をリアルに、そして情感もたっぷりに再現した本書は、まさに現役医師にしか伝えられない、血の通ったメッセージに溢れている。読めばきっと、身近な誰かに対して優しくなれる一冊なのだ。
アルパカ内田さんの手描きPOP。ご自由に使っていただけます。その際、こちらにご連絡いただけると幸いです
幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し
森沢明夫『桜が散っても』
美しい自然を持つ桑畑村を「第二の故郷」と
思っていた山川忠彦。しかし、初めて訪れてか
ら数年後、自身の勤務先が桑畑村の再開発
を進めていることを知る。忠彦は親友の檜山
浩之に会いに桑畑村へ向かうが、そこで人生
を揺るがす出来事に遭遇してしまい……。
そしてこちらも感動に包まれる傑作小説。
冒頭、桑畑村という山村で老人の死体が発見される。地元の巡査によって、その男は住民の山川忠彦であることが判明。一部からは「よそ者」「変わり者」と言われていたらしいが、巡査には忠彦の「穏やかで淋しげなまなざし」が印象として残っていた。
そして舞台は一転して過去に。まだ30歳になったばかりの忠彦は釣りが目的で訪ねた桑畑村で、地元の住人の檜山浩之に出会う。同世代の二人はすぐに意気投合し、忠彦は村の自然にも魅了されていく。そんな折、浩之から忠彦の会社が村内でリゾート開発を半ば強引に進めていると知らされる。そして現在。都内に住む還暦をすぎた麻美とその子供たち。苦労しながらも整体院を切り盛りする麻美、歳が離れた男との不倫をする娘、仕事にやりがいを感じられずにいる息子、それぞれの日々……。
2つの時代と場所を縫いながらストーリーは進む。徐々に明らかになる登場人物たちの過去への思いと葛藤。著者の巧みな筆は彼(女)らの心の空白が埋まっていく過程を丁寧に描き切る。長い年月は家族それぞれが抱いた思いを薄めるのではなく、濃くするのだ。
2024年もいよいよ大詰めになった今、こんな目玉作品に出会えた奇跡に感謝したい!
配信: 幻冬舎Plus
関連記事: