14年前に勤務していた都内の公立中学校で、抵抗することが困難な状態だった教え子の女子生徒(当時14歳)に性的暴行を加え、けがをさせたとして準強姦致傷罪などに問われている元校長の男性被告人(57歳)の公判が11月28日、東京地裁で開かれた。
この日、被告人は証言台に立ち、準強姦致傷事件の被害者であるAさんと、Aさんが中学を卒業後、入学してきた女子生徒Bさんにも在学中、性的暴行を加えていたことを認め、謝罪した。被告人は当時、認知の歪みがあり、Aさんに好意を持たれていると勘違いして犯行に及んだと語った。
一方、証人の精神科医は、犯行時の動画などからAさんが被告人からグルーミング(性的てなずけ)を受けており、逃げる気力を失って被告人に言いなりの状態にあったと指摘した。
被告人はなぜ守るべき教え子に性的暴行を加えたのか。女子生徒たちにはどのような被害があったのか。法廷で語られた犯行時の状況とは——。
(編集部注:性被害についての描写が出てきますので、十分にご注意してお読みください)
●「Aさんは学習性無力感の状態にあった」
この日、精神科医に対する証人尋問がおこなわれ、犯行時の動画をもとに、Aさんがどのような状態になったのか、子どもへの性的虐待の知見から説明された。
この精神科医によると、子どもが性的虐待を受けた場合、3つのプロセスがあるという。
「最初は(家族や身近な人間に)グルーミングをされます。加害者は段々と距離を詰めていき、子どものためだといって警戒心を解いていきます。子どもは最初、変なことをされたけど、自分のためにしてくれたんだろうと考えますが、エスカレートするにつれ、おかしいと思いながら、やっぱり思い過ごしかもしれないと半信半疑なります」
次の段階で性的虐待が本格化すると、子どもはすでに身動きできない状態になっているという。
「この段階では子どもも恥ずかしいことをされているとわかっていますが、人に言ったら自分が怒られるのではないか、大事になってしまうのではないかと思い、身動きがとれなくなります。誰にも話せなくなります」
最終的にはどうなるのか。
「こういう状態が続くと、逃れようという気持ちがなくなり、諦めてしまいます。これを学習性無力感といいます」とした上で、Aさんがそうした状態にあったと分析した。
動画の中でAさんが被告人に対して笑顔を見せている場面があることについては、「迎合反応として知られているもので、少しでもその場を和ませることで、相手の攻撃がエスカレートしないようにするものです」と説明した。
●「本当に恋人になったような気でいた」
その後、被告人は証言台で当時、Aさんに抱いていた思いを語った。
「Aさんはとても優秀で、努力家の生徒でした。いつもにこやかでまわりから信頼される方でした。本当に申し訳ないのですが、Aさんに身勝手にも好意をつのらせてしまい、ケダモノのような行為に及んでしまって…」
被告人は、部活後に「マッサージをしてあげる」などと言ってAさんを自ら使用していた理科準備室に呼び出し、身体を触り、性的行為をエスカレートさせていった。
Aさんは11月20日の公判で、「最初はよくわからず、こんなことをするのかと思った記憶があります。(何をされているのか)理解できていませんでした」「すごく嫌でした」と証言している。
被告人はAさんにとって学年主任であり、理科の教科担当であり、部活の顧問でもあった。毎日のように関わり、目をかけていたはずの生徒に対して、なぜ性的暴行を加えたのか。
被告人は自ら「認知の歪みがあった」として、「いつもにこやかだったので、Aさんが嫌がっていることに気づきませんでした」「中学生相手に本当に恋人になってしまったような気でいました」と述べた。
中学生だったAさんが性的な行為を受けて、抵抗することが難しいと考えなかったのかと問われ、被告人は「思いもよりませんでした」とも答えた。
配信: 弁護士ドットコム