●違法か適法か、一義的に明確にならない場面も多い
——SNSを利用した選挙運動は、通常の選挙運動にくらべて経験の蓄積が浅い気がします。そうした中、斎藤知事の選挙活動中、選挙カーに乗り込んで撮影している社長の姿も目撃されて、SNSに写真がアップされています。こうした社長の行動はボランティアとして言い切れるものなのでしょうか。
斎藤知事のSNSに使うための写真撮影をしたり、街頭演説の様子をライブ配信することは、選挙運動と言われても仕方ないのかなとは思います。
そこで、これが社長個人としてのボランティア活動であると、PR会社と切り離して見ることができるかどうかという点が問題になるのですが、これについては当の本人がどういっているかではなく、実態としてどうだったのかを見て判断されてしまいます。
とはいえ、その判断もなかなか難しいとは思いますね。そして、結論がどうであれ、その結論に対しては選挙実務に携わる人々にもさまざまな意見があるところだと思います。ただ、今回は、少し脇が甘かったのは否めないかもしれませんね。
——社長が投稿したものの中に、斎藤知事自身の公式アカウントの画像があります。11月7日に投稿されたもので、投稿した本人にしか見えない「エンゲージメント」が表示されており、社長がこのアカウントを管理運営していたのではという指摘もありました。
これは社長が主体的にアカウントを運営していた可能性を裏付ける一つの証拠ということにはなるのでしょう。そうであっても、社長個人が陣営にボランティアとして入っているという前提であれば、問題があるとまではいえません。
ただそれも、形式的な話ではなく、実態としてどうだったかということが大事です。先のお話と同様に、アカウントの運営・管理を主体的におこなっていたのは誰で、その人物がどのような立場で陣営に参加していたのかということですね。
今回の斎藤知事や社長に対する公選法違反の指摘についても、捜査当局は実態としてどうだったかを調査して判断するのだろうと思います。
——今回の選挙は、SNSが主戦場となっただけに、社長の投稿はさまざまなことを示唆したと思います。
インターネットを使った選挙運動は、実例の蓄積が少なく、みなさん手探りでやっているところもあると思います。
実は、公選法が規定している選挙運動や政治活動は、みなさんが思っているよりも、違法か適法かが、一義的に明確にならない場面も多いのです。
昔からおこなわれていることで、他の陣営もやっているから、これはきっとセーフなんだろうと思いきや、厳密に考えていくと、本当はアウトなのではないかという事象もあったりします。実際の選挙実務では、各陣営は、この曖昧な公選法に悩みながら、選挙戦を戦っているのです。
他方では、そうした公選法の曖昧な部分を逆手にとった政党や立候補者が出てきているのはみなさんもご存じのところだと思います。
斎藤知事の選挙活動に対して、どのような評価が下されるのか。その結論は、今後の選挙運動に大きな影響を与えると思います。今回の兵庫県知事選はその意味でも、歴史に残るものになるかもしれません。
配信: 弁護士ドットコム