介護現場では、主婦のパートタイマーや高齢者アルバイトなどといった非正規・短時間雇用で働く人の力が欠かせません。
しかし、こうした人たちは、いわゆる「年収の壁」により働く時間を一定範囲内に抑えたがることが多いため、雇用する側としては「シフトの作成が大変」「いざというときに人手が足りない」など不都合な点もありました。
将来、全国的に労働力が不足することが考えられることがあり、政府は「年収の壁」について撤廃・引き上げ見直しを図っている最中です。これが実現すればパート・アルバイトの働き方、雇用の仕方も大きく変わることが考えられます。
今回はこの件について詳しくみていきましょう。
まずは「106万円の壁」です。
これについては、先日厚生労働省が撤廃する方向性を示しました。来年の通常国会に関連法規の改正案を提出する予定です。
現在、学生以外のパートタイマーやアルバイトなどが配偶者の扶養を外れて厚生年金に加入するには
①従業員数が51人以上の企業で週20時間以上勤務する
②賃金が月に8万8000円以上、という2つの要件が設けられています。
②を年収に換算すると106万円以上となります。
なお、従業員数50人以下の企業では年収130万円以上が要件となります。この結果、扶養内に収めるために働く時間を年収106万円以内に調整する人も多くいました。
今回示された国の方針は、現在の要件のうち企業規模と年収については撤廃し、「週20時間以上働く場合は、企業の厚生年金に入る」というシンプルな仕組みにするというものです。
この背景には、今年実施された最低賃金の引き上げなどが大きく影響しています。
これにより、週20時間ほど働くと年収106万円を超えるケースが増えることが考えられます。
扶養から外れることを避けるために、これまで以上に「働き控え」が多くなる可能性があることから、実態に即した制度にすることが狙いです。
育児や介護などで長時間働けない事情がある場合を除けば、週20時間ギリギリまで働きたいと思う人が多いでしょうから、雇用する側にとっては労働力の確保がしやすいというメリットが生じます。
なお、厚生年金に加入した場合、働く側は毎月の保険料負担が増えるため手取り収入は減ります。
しかし、逆に将来受け取れる年金額は増えます。それを期待して週に20時間以上働くという選択肢も生じます。
さて、もう一つの「年収の壁」として知られるのが、年収がこれを超えると所得税の支払い義務が生じるという「103万円の壁」です。
これも働き控えの大きな原因となっています。
具体的には、103万円を超えた所得分に一定の税率を掛けた分が所得税額となります。
例えば、年収105万円なら、「超えた分(2万円)×税率5%=1000円」の所得税が課せられます。
税率は課税対象となる所得額に応じて5%~45%までとなっています。なお、2037年までは復興特別所得税として、所得税の2.1%分が上乗せして徴収されます。
10月末に行われた衆議院議員選挙では、「103万円の壁の見直し」を公約に掲げた国民民主党が大きく議席数を増やしたことから、政府内で協議が行われてきました。
11月20日には自民・公明・国民民主3党が「103万円の壁については2025年度税制改正の中で議論し引き上げる」という点で合意しました。今後、具体的な内容を詰めていくことになります。
ただし、これについては税収の大幅減少につながる可能性があることから一部の自治体からは懸念の声も上がっています。
壁の撤廃や引き上げにより収入は増えたが、逆に行政による住民サービスが低下してしまったなどという可能性も考えられます。
介護の三ツ星コンシェルジュ
配信: 介護の三ツ星コンシェルジュ
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