●高田さん「当時の取材プロセスを検証すべき」
こうした各社の振り返り記事について、元北海道新聞の記者で、現在は調査報道グループ「フロントラインプレス」代表として取材チームを率いる高田昌幸・東京都市大学教授は次のように指摘する。
「袴田さんの事件では、警察からの一方的な情報に基づいて、犯人視報道を延々と続けたわけです。当時の編集局幹部や担当記者は具体的にどう取材して、どんな指示を出して、どんな編集をしていたのか。各新聞社は、自社の先輩たちに取材し、当時の取材プロセスをきちんと検証すべきです。
今回、全ての報道をチェックしたわけではありませんが、具体的な取材プロセスに踏み込んで過去を検証したものは見当たりません。袴田さんのような冤罪事件はまた起きると思いますし、今も起きているかもしれない。
そんななかで、メディアが当時と同じように警察からの一方的な情報に基づく報道を続ければ、報道は再び間違ってしまうでしょう。袴田事件の報道は警察の広報に過ぎなかったわけですし、報道の責任は大きい。警察に寄りかかって事件報道を続けていると、また冤罪に加担するかもしれません」
●「事件は売れる」 今も警察取材に重点を置くマスコミ
高田さんがそう考える理由の一つに、新聞やテレビといったマスコミの取材体制が以前から大きく変化していないことがある。
報道各社は省庁や全国の都道府県庁などの記者クラブに記者を配置しているが、とくに多くの記者を置いているのが警視庁や道府県警察などの「警察記者クラブ」だ。
そこの記者たちは警察担当、いわゆる「サツ担」と呼ばれ、事件・事故を日々取材して原稿を書く。全国的に記者の数が減る中、警察は今も各社が重点を置く取材対象となっている。
日本では刑法犯の認知件数が減少を続けている。犯罪白書によると、袴田さんが逮捕された1966年の殺人の認知件数は2198件だったが、2022年は853件にまで減少した。そうした実態があるにもかかわらず、外勤記者に占める警察担当記者の割合はあまり縮小していないとされる。
しかもネット時代になり、事件ニュースはPV(ページビュー、記事の閲覧数)を稼ぐコンテンツとして重宝される。つまり、「事件は売れる」ということだ。高田さんによると、情報を警察に依拠する事件報道は、数も扱いも目立ってきているという。
配信: 弁護士ドットコム