●事件はコスパがいい 「今もペンを持ったおまわりさんだらけ」
今世間を騒がせている連続強盗事件やそれに連なる闇バイトのニュースでは、犯行グループが使っていたあだ名や被疑者の供述などが毎日のように大きく取り上げられている。
その一方で、鹿児島県警の元幹部による告発や広島県警の不正経理事件、北海道旭川市の女子高生殺害事件で逮捕された女性と捜査担当刑事の不倫疑惑など、警察担当記者が本来追及すべき事案では、報道に消極的だったり週刊誌やネットメディアに遅れをとったりしている。
要するに、新聞・テレビ各社による記者クラブ・メディアには、警察と真正面から対峙する報道がほとんどないのだ。
高田さんは、地球温暖化や過労死など深刻な社会問題は他にたくさんあるにもかかわらず報じられることが少ない現状があると言及した上で、次のように話した。
「かつてと比べ、殺人事件などの凶悪事件の数は大きく減りました。個別の事件が大きく報じられはするけれど、日本社会の治安は良好です。一方で少子高齢化、過疎化、環境問題、防災などの分野で問題は山積み。過労死や賃金未払い問題など人の生き死に関わる問題も後を絶ちません。
それなのに、世の中がこんなに変わってきているのに、社内の取材体制や仕組みを変えられない。組織自体が古びて官僚的、保守的、事なかれ主義に陥ってしまい、世の中が求めることに対応できなくなっています。こんなにも多くの記者を警察に張り付かせているのは、日本くらいではないでしょうか。
PVや視聴率を稼ぎやすいという意味でも、事件はメディアにとって日々の紙面作り・番組作りのコストパフォーマンスがいい。だから、旧来型の事件報道を手放せなくなっているのかもしれません。今もペンを持ったおまわりさんだらけです」
●「記者個人の行動が問われている」
ではどうすればよいのか。
「まずは、現場の記者たちが『そんな取材はやりません』というしかありません。その代わり、仕事はサボらずに一生懸命する。社会で何が必要とされているかを吟味し、それぞれのテーマを取材していく。それで左遷されたら?
死ぬわけじゃないし、そんなことを考えていたら何もできません。実際、冤罪に手を貸した形になっている記者の中には『当時はそれが普通だった』『会社組織だし、上司がやれと言った取材をやるしかなかった』などと言って、それっきりというケースも少なくありません。組織の論理の中に逃げ込んでしまうわけです。それが一番たちが悪い。
もちろん、組織ですから上が変わらないと、組織は変わらない。しかし、上層部のせいにして、組織の中に潜り込んでいくのは、実にかっこ悪い。何をどう取材するかの一義的な判断は、現場記者にあるはずです。取材が公共的な仕事である以上、なおさら、個人としての行動も問われると思います」
配信: 弁護士ドットコム