子育ては不安と葛藤の連続。悩んだときに吐き出せる場所を作ってほしい【サヘル・ローズ インタビュー】

子育ては不安と葛藤の連続。悩んだときに吐き出せる場所を作ってほしい【サヘル・ローズ インタビュー】

12月4日~12月10日は人権週間です。戦時下のイランに生まれ、孤児院で育ったサヘル・ローズさんは、7歳のとき、養母フローラさんと共に来日。しかし想像を絶する貧困やいじめ、ときに人としての尊厳、人権を傷つけられるような出来事が次々と彼女を襲いました。
「あの人の悩みに比べたら自分の悩みはちっぽけなんじゃないか?」と、心のモヤモヤを引っ込めてしまった経験はありませんか? でも、サヘル・ローズさんは、「悩みは他人と比べるべきものではない、今、あなたが抱えている悩みは世界でいちばん苦しいはずだから」と言います。不安や迷いを感じることは自然で決して恥ずかしいことではないと、子育て中のママやパパにエールを送ってくれました。
後編では、サヘルさんが、親として子どもたちに伝えてほしいこと、そして1人の人間として自分を受け入れることの大切さを話してくれました。

「だれでも差別する側になり得る」ことを子どもに伝えてほしい

――『これから大人になるアナタに伝えたい10のこと』(童心社)では、ウクライナ侵攻などの世界情勢にも触れていますが、子どもたちに伝えるべきことはなんだと思いますか?

サヘル・ローズさん(以下敬称略、サヘル) 1つは差別に気づくこと。本にも書きましたが、私自身もアフリカに行ったとき、気づかないうちに差別をした経験があります。もう1つは、日本では当たり前の文字を読んだり書いたりすることは実は奇跡だということ。

自分たちも差別する側になり得るし、人を差別して生きているということを、常に忘れて欲しくないし、自分の子どもにも伝えていってほしいです。

日本に住んでいれば、文字の読み書きができて戸籍があってIDがあって保険証があって・・・。でも世界の国の中には、文字が読めない、書けない人もたくさんいるし、政府や行政が機能していない国もあります。

そんな世界においては、自分たちの当たり前が通用しないことを、小さいころから繰り返し親の言葉で伝えてほしいんです。

――今もなお、世界のどこかで戦争や争いが続いています。

サヘル ゲームの中でボタンを押したりリセットしたりして人を殺すこともできる現代に育った子どもにいくら「戦争はよくないことだ」と説明しても、ピンと来ないし理解できないと思うんですよね。

そんな今だからこそ、「日本は外国からどう見られているのだろう?」など、あなた自身が感じたことを自分なりに考えて、子どもに伝えていくことが大切だと思います。

そのときは、主語が「世界」だと子どもにはわかりにくいので、「あなた」に置き換えて話してください。そうすることで子どもが理解しやすくなりますよ。

自分を愛せる秘訣は、自分の弱さを認めること

――このような世界情勢の中では、強くないと生きていけないと感じます。

サヘル 「弱い」という言葉は、ネガティブな印象を持たれがちですが、自分の「弱さ」を認められる人はとても強いと思うんです。真の意味での「強さ」は、多くの人が抱いている「弱さ」のなかにあるのではないでしょうか。

人は、強がることに必死になるとまわりが見えなくなります。一方で弱い人は多くのことが見えるのでしんどくもなりますが、見えているということは強さであると、私は思います。

世界の偉人や国のリーダーといわれる人だって、迷いが生じることはありますよね? 人間は迷って当たり前、ブレて当たり前なんです。迷っているからといって自分のどこかが欠けているわけではないし、だれもが迷っているということを知ってほしいんです。

まずは自分を知って、弱さを認める。それが自分を愛せる秘訣(ひけつ)なのだと思います。

――サヘルさんがそうだったように、大人になっても母親との関係に悩んでいる人もいるようです。

サヘル 親との関係を消化できないまま親になると、子どもとの関係をどうしたらいいかわかりませんから、苦しいだろうなと思います。

私の母は、嫌なことも含めて母親にされたのと同じことを、私にもする人でした。ずっとそういう母が嫌だったし、母との関係に苦しんでもきました。
そんな母を見て育った私は、「自分の子どもにも同じことをしてしまうのではないか?」という怖さゆえ、子どもを持てずにいます。

最近ようやく「お母さん、自分がやられて嫌だったことをどうして私にするの?」と言えるようになりましたが、もっと早くそれに気づいて母に伝えることができたら・・・、と思っています。

――苦しみや悩みは人それぞれ違うのですね。

サヘル 夫婦間の問題や子育ての悩みや葛藤、将来への不安・・・。今抱えているものがささいに感じるかもしれませんが、本人にとっては世界でいちばん苦しい、痛みに間違いありません。だからまずその痛みを肯定してほしいし、自分が苦しんでもいいということを知ってほしい。苦しんではいけないと思うから苦しくなるんです。

日本では我慢することが美徳だと言われますけれど、我慢の限界を超えたら自分自身が壊れてしまいますよ。

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