障害がある3人の息子を育てる住職。「1人じゃない」障害者とその家族の集いの場を作ることが、自分自身も前を向くきっかけに【体験談】

障害がある3人の息子を育てる住職。「1人じゃない」障害者とその家族の集いの場を作ることが、自分自身も前を向くきっかけに【体験談】

世代や職業、立場、障害のあるなしを超えて、さまざまな人が出会い集う。東京都豊島区の勝林寺の住職である窪田充栄さんは、そんな開かれた場所、人と暮らしのハブとなる地域のお寺をめざしています。窪田さんの長男と三男には発達障害、二男は脳性まひによる肢体不自由と子ども3人にそれぞれ障害があります。
ハブとなる活動の一環が障害児や医療的ケア児とその家族が集う「くつろぎば」。外に出る機会が少ない子どもと家族のために夏祭りや移動水族館、演奏会などのイベントを行いながら交流を図っています。

全2回インタビューの後編では、窪田さん自身を絶望の底から救ってくれた同じ障害を持つ家族との交流をきっかけに活動を始めた「くつろぎば」について話を聞きました。

「1人じゃない」。自分自身も前を向くために始めた「くつろぎば」

――「くつろぎば」を始めたきっかけを教えてください。

窪田さん(以下敬称略) 出生時のトラブルが原因で脳性まひ、肢体不自由となった二男のところに看護士さんを派遣してくれている訪問看護ステーション「ベビーノ」が、障害を持つ子どもと家族のための「グリンピースの会」という活動をしているんですね。私もその活動に参加したことで、同じ境遇の親御さんと会ったり話したりして、「こんな境遇にいるのは自分だけじゃない」と実感することができました。それが大きな救いとなり「くつろぎば」を始めようと思ったんです。

地域のお寺としてもこのような場を開くことに意味があると感じましたし、私個人も「自分1人だけじゃない」とすごく前を向ける気がしたんです。また当時は、私の知っている限り近隣にこのような場を開いているところはありませんでした。2カ月に1度くらいなら集まる人がいるかもしれないと、2016年、正式に「くつろぎば」の活動を始めました。同時に座禅や書道教室、金継ぎ、茶道など、だれでも参加できる「寺子屋」も開いています。

―― 「くつろぎば」では、どんな活動をしているのですか?

窪田 始めたころは、今のような催し物というよりみんなで集まって食べたり話したりするだけでした。しかし障害がある子はなかなか夏祭りにも参加できないという話が出たので、流しそうめんやかき氷、すいか割りなどをやってみたんです。それが好評だったので、葛西臨海水族館の職員さんに来てもらって出張水族館を開いたり、プロのカメラマンや美容師を招いて家族写真の撮影会をしたり・・・。

ほかにも映画の上映会や音楽の演奏会、節分などの行事など、2、3カ月に一度の割合でさまざまな催しをしています。

それでも、「くつろぎば」に参加されるのは、お子さんの障害をある程度受け入れられている方だと思うんですよ。受け入れられないとやはり外には出られませんからね。

昔なら助からなかった命が医療の進歩によって救われるようになりましたが、同時に障害という形で現れるケースは確実に増えました。おそらく皆さんが思われているより障害のある方がまわりにいるかもしれません。

海外では障害があっても障害のない人に交じってお店でレジ打ちをしている人を見かけます。しかし、日本では合理的に1カ所で管理しようとしているのでしょうが、朝、作業所に出かけて夕方になると家に帰ってくるので、なかなか一般の方と混ざり合う機会が少ないという現状があります。

――参加する人たちの様子を教えてください。

窪田 「くつろぎば」には毎回10〜15組のご家族が参加されます。移動水族館のときは20数組ものご家族が参加しました。アンケートでは参加者の多くから「こういう場があってよかった」という声が寄せられます。

初めて参加する方には、お子さんが生まれたときのエピソードをお聞きするのですが、皆さんいろいろな思いを抱えてらっしゃいますね。私と同じように「外に出られなくなった」と言う方もいて、同じように感じている人がいるのだなと気づきました。私自身も保護者同士の交流で救われていますから、「1人じゃない」「みんな同じように感じている」と感じてくれる人がいることはとてもうれしいですね。

グリーフケアとは、トゲトゲした角を少しずつ取りながらその思いを抱えて生きていくこと

――窪田さんは障害のある子どもと家族に寄り添うグリーフケアも大切にされているそうですね。

窪田 もう随分前のことになりますが、修行から帰って来た私が最初に執り行ったのは赤ちゃんのお葬式でした。しかし泣いているお母さんや遺族の方にどう声をかけていいのかわかりませんでした。同じ赤ちゃんの1周忌、3周忌のご法事でもお母さんは泣いてらして、そのときもどう声をかけていいのかわからなくて・・・。

そんな私に、先にグリーフケアに出合っていた妻が「勉強してみれば」と背中を押してくれ、2年間、講習に参加したんです。そこでいろいろな宗派のお坊さんの話を聞きながら、死別だけでなくさまざまなグリーフ(喪失)と向き合いながら生きていく、その向き合い方こそがグリーフケアそのものだと理解できるようになりました。

きっかけは僧侶としての経験でしたが、私の普通の子育てができない、日常生活がままならない生きづらさも実はグリーフで、そのグリーフを抱えながら子育てをしているのだと捉えられたときに、「くつろぎば」の活動も実はグリーフケアの1つだと理解することができました。

――私たちは「グリーフ」とどのように向き合っていけばいいのでしょうか。

窪田 グリーフケアを学んで最初に言われるのは「『乗り越える』」という言葉を使わない」ということです。「立ち直る」とか「乗り越える」などという言葉を使うと、そのために頑張らなくてはいけないと思ってかえってしんどくなってしまいます。だから「乗り越えるのではなくて、トゲトゲした角を少しずつ取りながらその思いを抱えて生きていく」。「喪失の苦しみから立ち直るのではなく、喪失を大切にしながら生きていくのを支える」。それがグリーフケアだと私は思っています。

子どもに障害があるかないかに関係なく、子育ては自分の思うようにはいきませんから、どのお父さん、お母さんもみんなそれぞれ頑張っていると思いますよ。それでも困ったときは全部自分でやろうとしないで、まわりの人に助けてもらうことですね。まじめである人ほど、すべてを自分で完結させて人に迷惑をかけないことが当たり前、一人前と思いがちです。多くの親は「人に迷惑をかけないような一人前の大人になりなさい」と言いがちですが、私は「迷惑をかけても許されるキャラクターを持つことが本当の一人前」だと思っています。迷惑をかけてもいい関係性が保てるようなコミュニケーションを取れるようになることが本当の意味での一人前。まわりの人とぜひそんなかかわりを持って助けてもらってください。

お話・写真提供/窪田充栄さん 取材・文 /米谷美恵、たまひよONLINE編集部

地域に開かれたお寺として、障害者家族当事者として、障害児や医療的ケア児とその家族が集う「くつろぎば」を主催する窪田さん。かつて同じ立場の家族とかかわり合いを持ったことで救われた自らの経験をつないでいます。窪田さんは、思い悩む人たちには決して「乗り越える」という言葉を使いません。つらい思いを消そうとしたり忘れようとしたりするのではなく、自分の中で抱えやすくすることが大切という言葉は、子育て中のママ、パパにとっても力強いメッセージだと思います。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

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