HTB北海道テレビ放送が開局55周年記念として制作した開局以来初のドキュメンタリー映画「奇跡の子 夢野に舞う」。
12月1日から東京の田端にある「チュプキ」という映画館で上映が始まり、初日に舞台挨拶がありました。わずか20席の小さなミニシアター。でも日本にたった一つしかないとても素敵な劇場でした。
シネマ・チュプキ・タバタ
日本で唯一のユニバーサルシアター
JR田端駅北口から徒歩5分くらい。商店街の真ん中に「シネマ・チュプキ・タバタ」はありました。チュプキとは木漏れ日や月のあかりなど「自然の光」をあらわすアイヌ語です。映画館を立ち上げた代表の平塚千穂子さんが「映写機の光が木漏れ日のように多くの人に降り注ぎますように」と願いを込めた時に、偶然出会った言葉なんだそうです。
初日は「満席」に
建物入口からロビーを抜けて座席まで段差無しで続いています
チュプキは、それまで視聴覚に障がいがある人に映画を楽しんでもらおうと活動していた平塚さんが、イベントだけではなく常設の映画館をと2016年に寄付を募って立ち上げました。
映画はすべての作品に聴覚に障がいがある人のための日本語字幕と、視覚に障がいがある人のために進行に合わせてストーリーや俳優の動きなどを解説するイヤホン音声ガイドがつきます。また映画の音を振動で感じられる抱っこスピーカーや、小さな子ども連れのために小窓から映画を観られる個室などが用意されている、誰でも(もちろん健常者も)映画を楽しめる“ユニバーサルシアター”です。
小さな子どもを連れて入れる個室と音声ガイド用のイヤホン
音声ガイドがすごい!
「奇跡の子 夢野に舞う」は多くの人に観ていただきたかったので、あらかじめバリアフリー字幕版を製作していて、チュプキさんに送ったところ上映していただけることになりました。子どもから大人まで楽しめる幅広いジャンルで上映されていますが、それらの字幕の貼付けや音声ガイドは、多くのボランティアスタッフが携わっています。
舞台挨拶にお邪魔した日は「奇跡の子」の音声ガイドのナレーションを担当した水口真名さんとお会いすることができました。
左が水口真名さん
水口さんは「ナレーションが上白石萌音さんなので、ハードルが高くてめちゃめちゃ緊張しました~」と話してくれました。
私も個室に入ってイヤホンをして音声ガイドを聞いてみたのですが「これは、大変なエネルギーと力量が問われるな」と驚きました。なんと申しますか、映画をさらに深く解釈して、音声だけでどうイメージされるのか想像して、それを字面で説明するのではなく聞いている人の想像力に訴える、余計な感情をそぎ落とした言葉を原作の流れを妨げないよう挟み込む、そんな作業が必要です。
例えば「悲しげな表情で」と感情を言葉にするのではなく「一粒、涙が頬をつたった」と写実的に表現することで、聴いている人の想像力や感動を奪わないようにするということでした。
かなりのスキルが必要だと思ったら、その音声台本を書くディスクライバーを高校の同級生が担当したと聞いてさらに驚きました。「奇跡の子」が私が監督をつとめた作品だと知って上映の推薦もしてくれたのだとか。思いがけないご縁に感謝です。
劇場2階にある字幕・音声ガイド制作室
配信: SODANE