輝かしい成績を残したハーフパイプ時代。フリーライドへの転向。結婚と出産。それら時々のタイミングで、RealStyleは小野塚彩那さんの心境をたずねてきた。そして、前回から3年後の白馬。やはりこの人は、会うたびにサプライズを携えてきてくれる。自身のドキュメンタリー作品。新たな相棒のJeep グランドチェロキーL。それらはすべて、オンリーワンを求め続ける挑戦に帰結する選択だという。

両極を行き来する日常を提示したドキュメンタリー

手前に紅葉。奥に雪渓。晩秋と初冬が折り重なった景色を一望できる場所に『ジープ グランドチェロキー L（Jeep Grand Cherokee L）』を止めて、はるか遠くを指さした。

「あれが白馬（しろうま）岳。その左が杓子岳で、白馬槍ヶ岳と続いて、少し離れているのが唐松岳」 来るたびに何かしら触発されるという白馬の山々を、2021年以来3年ぶりの小野塚 彩那さんが丁寧に説明してくれた。すぐそばではしゃぎ回る息子の姿を視界の隅に収めたまま。

まずは一つ目のサプライズ。プロジェクトの立ち上げは2年前。映像制作に約1年を費やしたドキュメンタリー映像作品の『MOMENTAL』が、2024年11月に公開された。現在を意味するタイトルは、母のMOMと、気持ちのMENTALの掛け合わせでもあるという。

「とんでもない場所を滑り降りるライダーが凄い！ で終わるものにだけはしたくなかったんです」

そんな小野塚さんの思いは、どこにでもあるような母子の触れ合いを経て、冒頭わずか約1分半後に現れるテロップで明らかになる。

▲Photo：Yuta Watanabe(Denpa by Rightup inc,)

「女性は母親になると何かを諦めなければいけないのか？」

この問いかけに対する返答は、観る者の立場によって変わる。その事実を気づかせるのが作品の意図、というより小野塚さんの実感がこもったメッセージなのだと思う。　

作中で小野塚さんは、フリーライドの経験値向上を目的に過酷な挑戦を行っている。本人は「凄いで終わらせたくない」と語ったが、Freeride World Tourの競技映像を含み、山に登る様子や滑走シーンは、やはり本物と唸る他にない迫力に満ちている。本末転倒な感想だが、平地で普段着の小野塚さんとだけ話してきた身にすると、その勇敢な姿が同一人物と信じられないほどだった。

▲Photo：Go Ito

ただし、小野塚さんだからこそ可能になるスキー映像は、この作品のテーマを明確にする一要素に過ぎず、強いて言えば普通の母親でいるプライベートとのギャップを感じさせるための扱いに留まっている。その両極を行き来する彼女の日常を提示したのが『MOMENTAL』だ。

▲Photo：Yuta Watanabe(Denpa by Rightup inc,)

山に向き合う一人のアスリートとして

「前にお会いしたときも話したと思うんですけれど、育児は世界を転戦するためのトレーニングよりきついんです。息子もだいぶ手が離れましたが、子どもはやっぱりママ・ママですからね。そんな状況を多くのお母さんが、母親とはそういうものと諦めているかもしれない。本当は自分にもやりたいことがあるのに。子どもはとてもかわいいんです。でも育児を一人でこなすのはとてもしんどい」

再会して語られた思いは、映像本編でも時間を割いたモノローグとなっている。

「保育園で何かあれば、最初の連絡は母親に来るじゃないですか。あるいはいまだ会社で上のポジションに就きにくいとか。ジェンダー平等が叫ばれながらも女性の立場が弱いままであることを、私は子どもを持って改めて痛感したんです。とは言え母親になって、何も縛られないのは無理。やれる範囲の中で限界を突破しようとする私の挑戦を知ってもらうことで、同じような立場の人が一歩を踏み出すきっかけになったらと。それが映像作品をつくろうとした理由です。観てくれた男性の中には、考えさせられたと言った方もいました。それぞれの見方をしてもらえたらいいですね」

今作で特に印象的だったのは、小野塚さんの実母のゆかりさんが登場する場面だった。世界的なアスリートになった娘と向き合う思いが語られるのだが、“現在の母親の気持ち”を表現する作品で、もう一人の母親の存在を提示したのが興味深い。あるいはそこに、『MOMENTAL』の普遍的なテーマが潜んでいるのかもしれないと思った。

いずれにしても、様々な思いを露にしてドキュメンタリーを制作した、彼女と彼女のそばにいる人々の覚悟が感じ取れる演出と言っていい。

「女性や母親はこうでなきゃいけないと考える人には反感を買うかもしれません。それでも、世の中に対して私なりに何かを示したい思いが強かった。劇中での挑戦も、そういう姿を撮った女性の写真や映像が残っていなかったから。そんな限界も越えたかったんです。山に向き合う一人のアスリートとして」

思いのほか距離が伸びる新たな相棒

もう一つのサプライズは、白馬まで家族3人で乗ってきたグランドチェロキーLだ。3年前に新潟で会ったときは、小野塚さんにとって2台目となるグランドチェロキー・アルティテュードと、夫の旅人（たかひと）さんが熱望した『ジープ ラングラー（Jeep Wrangler）』によるJeepの2台体勢だった。

「2024年の4月末に買い替えました。一重に、集約です。ラングラーの走破性は素晴らしかったし、ラングラーならではの“Jeepを運転している感”が好きな人の気持ちもよくわかりました」

▲Photo：Go Ito

『MOMENTAL』には、小野塚家の2台のJeepが登場する。撮影の日付をつぶさにチェックすると、それとなくラングラーからグランドチェロキーLに乗り換えたタイミングがわかる。

「グラチェロを車検に出すたび、知り合いの営業さんが次に私が欲しそうな代車を用意してくれるんです。それで乗った新しいグラチェロLが素晴らしかった。何よりLは、シーズン中に積む5～6セットのスキーと大量のギア一式が楽に収まったんです。短いリミテッドとの価格差も小さかったので、これは長いほうだと。ほぼ10万キロ走ったアルティテュードとのお別れはさびしかったし、主人もまたラングラーに乗りたいみたいですけれど、今度のLはベストチョイスですね」

その感想を裏付けるのは、自身でも予想外の走行距離にあるようだ。

「もう1万5千キロになるんです。どこに行ったんだろうと振り返ると、夏場にはあちこち家族旅行していたんですよね。その長距離移動がめちゃくちゃ楽に感じたから、納車から半年とは思えないほど距離が伸びたのかもしれません」

そうして生粋のグラチェロ乗りは、今度のLも徹底的に使い倒すに違いない。次に会うとき、どれほどの距離を走ったのかを聞くのが楽しみだ。

さて、『MOMENTAL』のリリース直後ながら、今後の活動をたずねてみた。たとえば、フリーライド競技の参戦計画はどうだろう。

「以前のように専念できれば、上位を目指すこともできると思うのですが、現在の状況や年齢を考えると、そうではない道を選んでいくことになると思います」

そうではない道？

「スキーが上手くなりたい気持ちはまるで変わらないんです。その意欲を生かした仕事をしながら、オンリーワンを目指したい。アスリートには、競技参加だけではなく、カルチャーを広げていく要素も必要なはず。であれば今回の『MOMENTAL』のように、映像に残るものをつくり続けることが、私の新たな挑戦になっていくと思います」

オンリーワン。それもまた、今以上に子育ての大変さに直面していた3年前に語られた言葉だった。そうして彼女はまるで揺るがず、我々の前にグランドチェロキーLで現れ、『MOMENTAL』を披露した。すべては小野塚彩那というオンリーワンのアスリート像を示していくために。

動画配信サイトのVimeoでは、間もなく『MOMENTAL』のオンデマンド販売が開始されるという。とにかくこの作品に触れてほしい。なぜなら、一切の予備知識がなくても、日々を懸命に生きようとする人の心に響くはずだから。

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Text：田村 十七男

Photos：Photos：安井 宏充（Weekend.）

投稿 オンリーワンのアスリート像を示していくために。～ドキュメンタリー作品を完成させた小野塚彩那さんのMOMENTAL～ は RealStyle by Jeep®（リアル・スタイル by ジープ） に最初に表示されました。

配信： RealStyle by Jeep