●〈バッシング加担したと言われるのは避けたい〉テレビの責任者が頭の中で考えること
とはいえ、ネット上では今も顔も実名も堂々と晒され続けている。しかも、noteを書いた「PR会社代表」は、SNSやネット動画にも多く登場しているわけで、「自ら進んで顔と名前を明かしている」状況だとも考えられる。
これだけ自発的に顔と名前を発信している人をテレビが守る必要があるのかという疑問は残る。
これに関して、テレビ局のニュースや情報番組の責任者の判断は次のようになるだろう。
〈PR会社代表が積極的に実名と顔を晒したのは、あくまでウェブ上での話だ。テレビにまで実名と顔を晒したいと思っているかどうかはわからない。だから、ウェブ上のコンテンツを引用するなり、身元を明かすには本人の許可が必要だ〉
〈それに、彼女が積極的に顔と名前をネット上で明かしたのは、今回の公職選挙法違反の疑惑が取り沙汰される前だ〉
〈現在でもまだ顔と名前を積極的に広めたいかというと、そうではない可能性が十分に考えられる。だからそういう意味でも、顔にはモザイクをかけたほうがいい〉
いくらネット上でバレバレになっていたとしても、テレビニュースで報道し、電波に乗せるにあたっては、「人権上の配慮が必要だ」と考えるわけだ。
もしテレビで顔を晒され、名前を明かされたことによって、PR会社代表が世間からバッシングを受けて追い込まれることは避けなければならない。
もっと本音に沿って踏み込んだ言い方をすれば「テレビ局がバッシングに加担した」と言われないために、安全策を取るのがテレビ局報道関係者としての”自己防衛本能”である。
●「売名に利用されてはいけない」
実は顔にモザイクをかけて名前を出さない根拠はもう一つある。「売名に利用されない」ということだ。
今回の経緯を見ると、PR会社代表は「斎藤知事の奇跡的な逆転劇を成し遂げたのは私たちの広報戦略があったからだ」という文脈でnoteを書いたと思われる。
記名、顔出しだったこともあり、「宣伝や売名の意図があったのではないか」と常識的にも考えられる。つまり、彼女の名前と顔を繰り返し放送することが、場合によっては宣伝や売名にみすみす乗ることになる可能性もあるわけだ。
このように、さまざまな角度から検討すると、私がニュースデスクならPR会社代表の顔にはどう考えてもモザイクをかけざるを得ず、名前も伏せざるを得ない。たとえネット上でバレバレになっていても、だ。
配信: 弁護士ドットコム