独立行政法人福祉医療機構(WAM)は11月20日、2024年度報酬改定の実態把握を目的に、介護事業所に実施したアンケート調査の結果を発表しました。
今回はその結果の中から処遇改善加算の算定状況を詳しく分析します。
アンケートは今年7月~8月にかけて全国6636法人に対してWebを通じて実施したもので、1673法人が回答しています。
今回の介護報酬改定では、処遇改善加算、特定処遇加算、ベースアップ等支援加算の3つの加算が介護職員等処遇改善加算に1本化されました。
この加算はさらに算定要件に応じて(Ⅰ)~(Ⅳ)に分けられています。
(Ⅳ)は最も要件が簡単で、職場環境の改善や賃金体系等の整備などで算定できます。
(Ⅲ)は(Ⅳ)に加え、いわゆる「キャリアパス制度」の整備が要件となっています。(Ⅱ)は(Ⅲ)に加えて、処遇改善後に年収440万円以上となる従業員が1名以上在籍することが要件です。
最も要件が厳しい(Ⅰ)は、(Ⅱ)に加えて「経験技能のある介護職員を事業所内で一定割合以上配置していること」が求められます。
その新しい加算の算定状況を、主な介護保険サービス種別ごとに見てみましょう。
加算(Ⅰ)の算定率が最も高いのは特別養護老人ホームで79.6%です。介護老人保健施設、通所リハビリテーション、認知症デイサービスは60%代後半、訪問介護や小規模多機能型居宅介護、デイサービスは60%前後です。
一方でグループホームは50%強と低くなっています。最も低いのは介護医療院で44.0%でした。
ちなみに加算(Ⅱ)は、介護医療院を除けば概ね90%前後の算定率となっていますので、「(Ⅱ)までは算定できるが、(Ⅰ)はなかなか難しい」というのが多くの介護事業者の実情ではないでしょうか。
また、訪問介護、デイサービスの2つのサービスについて、社会福祉法人運営、営利法人運営それぞれの事業所の加算(1)の算定状況を調査しました。
デイサービスでは、社会福祉法人の算定率が73.1%なのに対し、営利法人では31.9%と2倍以上の開きになりました。
一方で、訪問介護では社会福祉法人68.3%、営利法人50.0%とそれほど大きな差になっていません。
これについては、①訪問介護のスタッフは、介護職員初任者研修など資格取得の必要性があることから、ベテランが占める割合が高い、②介護職の中でも訪問介護職の有効求人倍率は14.4倍と非常に高く、処遇改善を進めなければ人材確保が困難、という理由が考えられるとWAMでは分析しています。
このように加算(I)の算定率が6割程度にとどまっている背景には、加算(Ⅰ)に必要な「経験技能のある介護職員を事業所内で一定割合以上配置している」というキャリアパス要件のクリアが困難なことが考えられます。
例えばキャリアパス要件では、既存のサービス提供体制強化加算などの算定実績も判断材料になります。
サービス提供体制強化加算の算定には、介護福祉士の割合や勤続10年以上の介護福祉士の割合などの要件があります。このため、ある程度の業歴のある事業所でないと算定が難しくなるという事情もあります。
ちなみに、介護福祉士受験者数は2005年~2015年度ごろは概ね14万人前後で推移していましたが、2016年度以降は8万人前後と6割程度に減少しています。
合格者数も近年は6万人前後で推移しており、最も多かった2013年度の6割の水準となっています。
このように、介護福祉士となる人が減少傾向にある中で、近い将来介護福祉士不足が深刻化する可能性もあります。加算(Ⅰ)の算定に向け、介護福祉士の獲得、定着を法人として戦略的に行っていく必要があるといえるでしょう。
介護の三ツ星コンシェルジュ
配信: 介護の三ツ星コンシェルジュ
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