「神様は清潔なところが好きで、きれいなものに宿る」。12月は、普段使っている道具のお手入れを|桃虚

「神様は清潔なところが好きで、きれいなものに宿る」。12月は、普段使っている道具のお手入れを|桃虚


『神様と暮らす12カ月 運のいい人が四季折々にやっていること』。の著者、桃虚さんが、ドラマ「光る君へ」を見てこんなふうに感じたそうです。(桃虚さんのnote「呪詛(@光る君へ)について」より)

神社でやっていることと、平安貴族がやっていることって、ほとんど同じなんですよね。

着ている装束も、

陰陽道でものごとを決めたりすることも、

季節の行事をガチでするところも。

舞を舞って、音楽を鳴らし、お酒で祝うところも。

そんな桃虚さんが、日々神社でやっていること、感じたことが、本書には色々綴られています。

月ごとに、やっておきたい「開運行動」が書かれているのですが、12月にはいったいどんなことが―!?

*   *   *

「いつもの道具」を清めてお手入れ、一緒に年を越す支度

12月は、一年を締めくくる月。

「終わり良ければすべて良し」と言うように、12月がうまくいくと、一年間まるまるうまくいった感じがしてお得です。

そんな12月の幸福度を左右するのは「暮らしの始末」。

ふだん使っている道具類の点検やお手入れをして清め、一緒に年を越しましょう。

神様は清潔なところが好きで、きれいなものに宿ると言われます。家をそうじしたり、身ぎれいにすることが開運につながると言われるのはそのためです。そんな、部屋や自分をきれいにするための「道具」もまた、きれいで神様を呼ぶようなものが良いですよね。

中でも特に、この時期にお手入れすると開運につながるアイテムが、櫛(くし)やブラシなど、髪の毛を整えるもの。身から出たよごれを取ってくれる道具を、丁寧にお手入れすることにより、自身の一年のけがれも浄化され、運が上がりやすくなるからです。髪を清めるための櫛やブラシ。シャンプーやボディーソープの入れ物や石鹸(せっけん)置き。水道の蛇口やシャワーヘッド。洗ったり、拭いたり、磨いたりして、ぴかぴかに光らせておきます。いつもの身だしなみ道具に神様が宿ってくれたら、きっと自分の美しさにも、神々しさが加わるはず。そう思えば、年末のお手入れが楽しくなります。

平安時代、宮中では、12月の陰陽師が選定した吉日に、「髪上」という行事が行われていました。みかど(天皇)が使った櫛の歯についたよごれや、抜けた毛を、一年間ためておいて(!)、この日に吉方へ向かってお焚(た)き上げしたのです。

(イラスト:宮下 和)

昔は男子も長髪でしたし、毎日髪を洗うという習慣もありませんでしたので、櫛で髪を梳(す)く、ということは、男女を問わず必須の習慣でした。毎日髪を梳くことで、頭髪の汚れを落とし、できるだけ清潔に保っていたのですね。それは病を遠ざけることを意味しますから、髪を梳くということ自体が、「清め」であり、健康を保つ大事な習慣だったのです。

「源氏物語」の「紅葉賀」には、

主上の御櫛(おんすきぐし) にさぶらひけるを、果てにければ、主上は御袿(おんうちぎ) の人召して出でさせ給ひぬるほどに、

(=〈高齢の典侍(ないしのすけ)〉は、お上の御髪 きに伺候したが、終わったので、お上は御 係の人をお召しになって退出あそばされた後に、)

……と、 典 侍源が(げんのないしのすけ)壺帝桐(きりつぼてい)の髪を梳いたという描写があります。

また、「枕草子」「うへに候らふ御猫は」には、

御(み)けづり髪(ぐし)、御(み)手水(ちょうず)など参りて、御鏡をもたせさせ給(たま)ひて御覧ずれば、

(=〈中宮様が〉御髪をとかし、御洗面をなさって、〈私に〉鏡を持たせなさってご覧になると、)

という一文があり、中宮定子の朝の身だしなみを整えるため、清少納言が「御けづり髪=整髪の櫛」と、「御手水=洗面の水」を用意しているのがわかります。

今は櫛よりもブラシを使う方が多いと思いますが、髪を梳く(ブラッシングする)という動作が、髪のためにも地肌のためにも良い、と認識されている点では昔と変わりません。

洗髪の前に髪を毛流れとは逆の方向にブラッシングすると、汚れが浮き上がって落としやすくなるそうですし、朝のブラッシングは頭皮の油分を髪全体へいきわたらせ、頭皮の血行を促進して、それが顔の血色や張りのよさにつながると言われます。

櫛は実用性が高いだけでなく、神話に裏打ちされた「お守り的効果」もある、神様とのかかわりが深いアイテムですので、懐にひとつ、しのばせておくと吉です。

(イラスト:宮下 和)

日本の神話「古事記」には、三貴神のうちの一柱であるスサノオが、クシナダヒメを守るため、彼女を「湯津爪櫛(ゆつつまくし)」という櫛のすがたに変えて髪に挿し、ヤマタノオロチという八つも首がある大蛇を退治した、とあります。「湯津」は神聖であるということで、この櫛の霊力によってスサノオの戦闘力がアップしたことを意味しています。

「日本書紀」には、イザナギが、薄暗い泉国黄(よみのくに)まで愛しのイザナミを探しに行ったとき、「湯津爪櫛」の歯を折って灯をともし、明かりにした、とあります。また、黄泉国で変わり果ててしまったイザナミに別れをつげ、黄泉国から脱出するさいも、イザナギは追ってくる鬼神たちに向かって「湯津爪櫛」を投げて難を逃れます。イザナギにとって櫛は、お守りであり、サバイバルアイテムなのでした。

昔の人は、「道具の年取り」と言って、生活の道具も、新しい年を無事に迎えられるように、年末には小さなお餅と細い注連縄(しめなわ)をあしらったお供えを添えて飾ったそうです。お手入れして、道具を丁寧にメンテナンスし、「もの」にもささやかなお供えをしてみる。

それは師走のあわただしさの中で、穏やかで満たされた、雅な時間になると思います。

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