誰かを待つ時間、その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
そんな「待つ時間」にそっと寄り添う音楽をモチーフに、DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに言葉を綴っていただきます。
悲しみの向こう側に刻まれた足跡は薄く小さく霞んでゆき、あの人が生きた痕跡もまばらになって
サイレンの音が聞こえない街で眠ることを知るほどに、あなたは深く強くあくびをする
僕の眼は中年に差し掛かったせいか焦点が合わなくなり、スクランブル交差点のスクリーンの文字さえも目に入らない
飼い猫が大きな音に怯えるように、いつの間にか人間としての本能に忠実に生きることを選んでいて
あの子が、ただ泣きたくなる気持ちに寄り添って、何もしてあげられなかったわけじゃなく
ただこの大きな時空の片隅で早く眠りについてしまうとしたら、神様の掌が気まぐれに運命をすくいあげただけ
ありえない発想、想像を絶する狂気、君の機嫌を損ねるニュースは後をたたない
子供の頃に夢見ていた旅みたいに優雅にはなれなくて、ただ誰かの足を引っ張らずに存在するだけでも精一杯
己の至らなさにタイトルをつけて正当化するなんて器用な考えにも及ばず、申し訳ないほどにありのままに生きてしまう誰かに嫉妬することもあったけれど、巡りゆくストーリーの散歩ぐらいに思えば痛みは軽い
遠回りをしても、近道を選んでも、きっと還る場所は近いから
たとえ同じじゃなくても嘆かずに、与えられた時間を噛み締めて、そして突然のサヨナラも心に携えて生きてゆくのです
藤井風『LOVE ALL SERVE ALL』(2022年、Universal Music)収録
配信: 幻冬舎Plus
関連記事: