基本は「pHの調整と堆肥のすき込み」と言われても……
何が言いたいかというと、「知的菜産」も、これと同じような作業であるということだ。いろいろなことがらについて、言葉だけでなくスキーマが身につかないと、勘所がわからない。知的菜産のより面白いところは、さらに、それを実地に、産物として確かめていけるところだ。
先に、さらっと「それほど堆肥をすき込んだりしていた訳ではないので」と書いたが、堆肥なるものが世の中に存在することすら知らなかった。なんやねんそれは、である。野菜を育てるには、土に肥料を撒いたらいいだけだと思っていた。言い訳になるが、堆肥って、農作業をしたことのない人にはほとんど知られてないのではなかろうか。家庭菜園の本を読むと、どれも、まずは土作りについて説かれていて、堆肥がとりわけ大事と書いてある。が、そもそも、土作りなどという概念すら持ち合わせておらんかったわ。
あかんがな。道が遠すぎる。基本、へたれな性格なので、こんなことでは野菜作りなど無理ではないかという考えが頭をよぎる。しかし、定年後は晴耕雨読とあちこちで豪語してきた手前、さすがに始める以前にやめるなどというわけにはいくまい。ちょっと勉強したら、土作りの基本は、pHの調整と堆肥のすき込みということがわかってきた。それくらいやったらちょろいがな。
もちろんこれも知らなかったのだが、一般的に日本の土は酸性に傾きやすいらしい。pHについてはさすがに知識があるぞ。酸性ならば、アルカリ性の物質を投入すればいいだけだ。中学生でも知っておるるわっ。土壌用のpHメーターを購入して、石灰を撒いて調整した。といえばスムーズに聞こえるが、そうでもなかった。溶液のpH測定は十分な経験があるが、土のpHの測定などしたことがない。土に水をまいて土壌用pHメーターをつっこむだけなのだが、どう考えてもええ加減である。そんなんでちゃんと測れるんか。それに、同じように石灰を撒いても、場所によってけっこう測定値がばらつくやないの。どないしたらええねん。
それぞれの野菜ごとに栽培に至適なpHが知られてはいる。しかし、野菜の育て方の本には、そのpHに合わせましょう、ではなくて、平方メートルあたりどれくらい石灰を撒きましょうという量が書いてあるだけだ。ここから、スキーマ的に何をどう読み取るか。おそらく、土壌のpHをきっちりと合わせるのは難しいに違いない。決めた、適当でいこう。横着だけれど、できないものを悩んでも仕方がない。知的菜産とかスキーマが大事とか、偉そうなことを言うわりには、我ながらむっちゃええ加減やけど……。時々、気休めのようにpHを測ってはいるが、そこそこの値にはなってるから、まけといたってください。
堆肥の歴史は肥料よりうんと長かった!
お待たせしました。いよいよ、堆肥とはなにか、である。広辞苑をみると「藁・ごみ・落葉・排泄物などを積み重ね、自然に発酵・腐熟させて作った肥料。つみごえ。」とある。「つみごえ」は「積み肥」、堆肥の堆の訓読みは「うずたかい」だから、同じ意味、単に作り方に由来する名称である。ふむ、家庭でも作ることができるらしいが、そんなもんまで作ってたら、どんだけ手間と時間がかかんねん。購入するしかないわ。
広辞苑には「肥料」とされているが、その作用は養分だけではなくて、土壌改良効果も大きい。というよりも、そちらがメインのようだ。ふかふかしてるので水分の保持がよくなって、肥料の成分も長持ちする。そのような働きで植物の生育を助けるのだ。えらいぞ、堆肥。しかし、こういうことを知ると、いつも不思議に思う。誰がどのようにして、そんなものを思いついたのだろうかと。ChatGPT様に聞いてみたら驚いた。
「堆肥の利用は非常に長い歴史を持ち、その起源は農業の歴史とほぼ同じくらい古いと考えられています。堆肥の使用に関する最古の記録は、古代エジプトやメソポタミア文明に遡ります。紀元前3000年頃には、これらの文明で堆肥を利用して土壌を肥沃にし、作物を育てていた証拠が残っています。」
肥料の歴史より、うんと長いんや。ホンマですか……。堆肥と肥料、知名度と歴史はまったく逆なんや。「農作、それは堆肥と共に歩んで来た歴史」とかいう宣伝文句をつけたくなってしまうがな。
ホームセンターで買ってきたバーク堆肥というのを使っているのだが、1平方メートルあたり、10リットルをすき込みましょうと書いてある。60坪のうち半分は果樹を植えてあるので、畑は約30坪、畝にしか撒かないのでおよそ半分として15坪、ざっと50㎡だから、1シーズンに20リットル入り約8キログラムが25袋で計200㎏、けっこうな量だ。入れると確かに土はふかふかになる。けれど、しばらくたつと元の木阿弥、畑はカチカチになっている。う~ん、これはあんまりよろしくなさそうだが、どうしようもないわなぁ。これより大量に堆肥を入れてもキリがなさそうやし。
土がよくなったかどうかは、野菜を育ててみないとわからない。しかし、たとえ育てたところで、比較対象がないのだから、結局のところ、本当にいい土かどうかはわからない。何種類か違った土作りをしての比較は不可能ではない。しかし、同じ条件で植えた隣り合った苗ですらずいぶんと違う育ち方をすることがよくあるくらいなのだから、土の良し悪しを判断するには、そこそこの規模の面積で比べる必要がある。面倒くさすぎるやん。それに、そんなに土地ないし。ということで、あまり凝ることなく、適当にpHをあわせるための石灰や草木灰を撒き、堆肥と肥料は多くの本に書いてある量の平均値くらいをすき込んでごまかしている。家庭における菜産では、これが限界とちゃいますかねぇ。言い訳ですけど。
配信: 幻冬舎Plus