肝臓に脂肪がたまる原因は糖。だが、同じ糖でも固形で摂るのと液状で摂るのとでは肝臓への負担の度合いが異なる。液状の糖は、誘導ミサイルのように猛スピードで肝臓を攻撃してしまうのだ。
生体肝移植のプロフェッショナルで「スマート外来」担当医である尾形哲さんの最新刊『甘い飲み物が肝臓を殺す』より、なぜ液状の糖は肝臓にとって危険なのか、その理由を抜粋して紹介する。
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糖は液体で摂ると肝臓破壊スピードが加速する
ここで、わたしたちが肝臓を日々の食生活で守っていくために、絶対に覚えておいたほうがいい重要な話をしましょう。
それは「同じ糖を摂るにしても、『固形』で摂るのと『液体』で摂るのとでは肝臓へのダメージが非常に大きく違ってくる」という話です。
冷たい飲み物をゴクゴクッと飲むと、その冷たい液体が体の中をツーッと通っていく感じがありますよね。
このことからも分かるように、液体の飲食物はほぼ胃を素通りして、小腸までスピーディーに流れていってしまいます。
当然、果糖やブドウ糖がたくさん含まれた甘い飲み物もあっという間に小腸にたどり着いて、そこで血液中に吸収されることになるわけです。
つまり、液体の糖は、固形に比べるとものすごく吸収スピードが速い。
固形物であれば「胃で消化される」という時間と手間がかかるわけですが、そのプロセスをすべてすっ飛ばしていきなり小腸にやってきてしまう。
じつは、この「吸収スピードの差」によって、糖が体へもたらす影響が“まるで別の物質じゃないか”というくらいに違ってきてしまうのです。
最初に、ブドウ糖の場合を見ていきましょう。
糖質は精製が進むほど肝毒性が強まり、未精製のほうが肝毒性が弱くなります。
穀物であれば、玄米や胚芽米など食物繊維や胚芽が残っているほうが、消化に時間がかかり、小腸でのブドウ糖吸収が遅く、血糖値も上がりにくくなります。
そのため、インスリン分泌も少量で抑えられ、ブドウ糖を中性脂肪に変えるインスリンの働きが弱められて、脂肪蓄積を防ぐことになるわけですね。
一方、精製を進めて繊維などの固形物をすべて取り去った「液体」の状態でブドウ糖を摂ると、いったいどうなるでしょう。
これはほとんど知られていませんが、液体のブドウ糖は小腸で吸収されると、血糖値を一気に上昇させることになるのです。
最近は簡易的に血糖値の推移を計測できる「FreeStyle(フリースタイル) リブレ」(アボット)という測定機器が発売されていて、私はそれを装着しながらさまざまな飲み物を飲んで試してみたのですが、甘い炭酸飲料やスポーツドリンク、乳酸菌飲料などを飲んだ際、“まさか、こんなに速く、こんなにも大幅に血糖値が上がるのか”と、びっくりしてしまいました。
本当に、飲んで30分後には、80㎎/ くらいだった血糖値が200㎎/ 以上にまで上がるのです。
このようなスピードで血糖値が上昇すれば、当然、インスリンもたくさん分泌されて、ブドウ糖を中性脂肪へ変換するインスリンの作用が惜しみなく発揮されることになります。
だから、ブドウ糖を液体で摂っていると、時間をかけずどんどん脂肪がつくられて肝臓にたまっていくことになるわけです。
新知見! 体内で果糖がブドウ糖に変換される方法とは
次に、果糖です。じつは、果糖の場合も、「固形で摂ったとき」と「甘い飲み物として液体で摂ったとき」とを比べると、体にもたらす影響が“劇的”というくらいに違ってくるのです。
いったいどうしてそんなに大きな違いが生まれるのか。
それは「果糖を固形で摂ったとき」と「果糖を液体で摂ったとき」とで、「果糖の入ってくる量」や「果糖が吸収される速さ」がまったく違うからです。
たとえば、ミカンの皮をむいて小房ごと食べたり、リンゴを丸かじりしたりする場合、一度に食べるのはせいぜいリンゴ1個、ミカン2、3個ぐらいで、そうたくさんは食べられませんよね。
つまり、固形状態だと、入ってくる果糖の量がわりと少ないのです。
また、フルーツを固形で食べる場合は、糖の吸収を遅らせる食物繊維が多く含まれているため、比較的ゆっくりと少しずつ吸収されるかたちになります。
一方、液体の甘い飲み物には、フルーツを固形で食べるときとは比べ物にならないほど大量の果糖が含まれています。
たとえば、1杯(200ml)のミカンジュースには、4個から7個のミカンが使われています。
果物ジュースだけではありません。甘い炭酸飲料、乳酸菌飲料、スポーツドリンクなどに含まれている果糖ブドウ糖液糖にも空怖ろしくなるほどの量の果糖が含まれています。
しかも、一部の(つぶつぶや繊維を残した)果物ジュースやスムージーを除き、ほとんどの甘い飲み物は食物繊維がすべて取り除かれてしまっているので、ものすごく吸収が速く、大量の果糖が一気に小腸になだれ込んでくるわけです。
摂取にかける時間も、1個のミカンを食べるのには数分かかりますが、ジュース1杯は10~30秒程度でゴクゴクッと飲めてしまいますよね。
そして、この「果糖の流入量」と「吸収スピード」の違いが大きな分かれ目。
じつは、果糖は、少なめの量をゆっくり吸収した場合、小腸細胞の作用によってブドウ糖に変換されることが最新の研究で明らかになっているのです。
(イラスト:ナカオテッペイ)
これは、2018年にプリンストン大学の研究グループによって発表された新知見。
フルーツを固形で食べたときのように果糖の摂取量が少なく吸収がゆるやかだと、小腸の細胞内にあるケトヘキソキナーゼという酵素が作用して、果糖がブドウ糖と有機酸に変換されるのです。
しかも、この場合、最大90%が果糖からブドウ糖へ変わるとされています。
つまり、小腸細胞には果糖が直接肝臓に行くのを防ぐ役割があって、「悪玉糖」とされる果糖も、フルーツを固形のまま少量食べる分にはそれほど大きな問題を起こさない、ということが判明したわけですね。
では、甘い飲み物を飲んだときのように、果糖を液体で大量に摂取した場合はどうなるのか。
小腸の「果糖→ブドウ糖と有機酸」の変換能力には限界があるため、大量の果糖が一気になだれ込んできて、しかも吸収も速いとなると、まったく変換処理が追いつきません。
当然ながら、処理しきれずあふれ出した大量の果糖は、「直行ルート」で肝臓へと向かってしまうことになります。
すなわち、これらの果糖が、肝臓を脂肪化させたり肝細胞を傷つけたりして大ダメージを与えることになるというわけです。
このように、果糖による肝臓ダメージは、フルーツのまま少量を摂るか、甘い飲み物として大量に摂るかによってまったく違ってきます。
フルーツを固形のまま少量食べるだけならば、「全身をゆっくり巡るブドウ糖歩兵部隊」で済ませることができますが、甘い飲み物としてたくさん摂ってしまうと、大量の果糖が「誘導ミサイル」となって肝臓へ向けて次々に発射される事態になってしまうのです。
配信: 幻冬舎Plus