教え子に性的暴行、元中学校長に懲役9年判決 「時効の壁」を崩した“証拠動画”と被害者たちの怒り

教え子に性的暴行、元中学校長に懲役9年判決 「時効の壁」を崩した“証拠動画”と被害者たちの怒り

「主文、被告人を懲役9年に処する」

法廷で裁判長から判決が告げられても、昨年まで都内の公立中学校で校長を務めていた男性被告人(57)は、その表情を変えることはなかった。

14年前に勤務していた都内の公立中学校で、抵抗することが困難な状態だった教え子の女子生徒Aさん(当時14歳)に性的暴行を加えてケガをさせたとして、準強姦致傷などの罪に問われていた裁判員裁判(細谷泰暢裁判長)で12月9日、被告人に実刑判決が下された(求刑懲役10年)。

公判の争点となったのは、Aさんが拒絶できない状態にあったか、また、性的暴行によって「ケガ」を負ったかどうかだった。

事件は2010年6月に発生した。準強姦致傷罪と判断されれば、公訴時効は15年なので犯罪が成立するが、準強姦罪の公訴時効は10年となるため、犯罪には問えないことになる。

このため、検察側は公判で、Aさんが全治1週間程度のケガをしていたと主張したのに対し、弁護側は「準強姦罪致傷に問われる程度のケガをしていたとは言えない」などとして、「免訴」を求めていた。

判決では、Aさんは被告人の意にそわなければ、その影響力によって、学校生活や学業生活および部活動などで不利益を受けかねないという不安を抱いて、抵抗できない状態にあったと認めた上で、Aさんがケガを負ったとして、準強姦致傷罪を認定した。

異例の公判で、立ちはだかる「時効の壁」を崩したのは、勇気を持って被害を訴えた女性たちと、被告人が「後で自分で見るために」削除せず、校長室に保管していた犯行時の動画だった。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●判決では「認知の歪み」を一蹴

判決によると、被告人は2010年6月午前、勤め先だった中学の理科準備室で、当時14歳のAさんに性的暴行を加えた。被告人は当時、学年主任、理科の教科担当、および部活の顧問を務めており、Aさんが13歳の時からマッサージや学力向上のためなどといってAさんを呼び出し、2人きりの状態で身体を触り、徐々にその行為をエスカレートさせていった。

公判では、強姦致傷罪が成立するかどうか、次のような争点があった。

弁護側は、Aさんが被告人を拒否できる状態にあったと主張した。しかし、判決では、Aさんは性的知識に乏しかったことや、Aさんの証言、Aさんが「抵抗を諦めてしまう状態にあった」という精神科医の証言などを重視し、これを一蹴した。

2つ目の争点として、Aさんが拒否できない状態にあったことを、被告人が認識していたかどうかで、検察側と弁護側で対立していたが、判決では次のように厳しく断じた。

「被告人は認知のゆがみや成人向けビデオの影響でAさんの心情がわからなかったなどというが、中学教師として順調に昇進して校長になるなど破綻なく社会生活を送っているのに、認知能力に問題があってAさんの状態や心情を認識できなかったとは到底いえない」

3つ目の争点は、Aさんに「ケガ」が生じたかどうかだった。これについても、裁判所はAさんの動画を検分した法医学の専門家の診断を認め、Aさんに全治まで数日ないし1週間を要する傷害を負わせたと判断した。

●被害者たちの勇気ある証言

この事件が発覚したのは、昨年のことだった。Aさんと同様に被告人から性的暴行を受けていた元女子生徒のBさんが、東京都の第三者相談窓口に相談したことをきっかけに、被告人が当時務めていた都内の公立中学が家宅捜索された。このため、被告人は、児童買春・ポルノ禁止法違反(所持)でも起訴されており、これも有罪となっている。

校長室では、あってはならないものが保管されていた。鍵のかかった机の引き出しから発見されたビデオカメラには、Bさんだけでなく、Aさんに対する性的暴行の様子が記録されていた。Bさんに対する性的暴行は時効の関係から起訴に至らなかったが、より被害が深刻だったAさんの性的暴行については、準強姦致傷罪で起訴された。

逮捕のきっかけとなった児童買春・ポルノ禁止法違反の法定刑の上限は懲役1年、罰金100万円であり、執行猶予がつく可能性もある。しかし、準強姦致傷罪は無期あるいは5年以上20年以下の懲役となり、より罪は重くなる。

準強姦致傷罪に問えるかどうかは、Aさんの証言が重要となった。

被害を忘れようと「記憶のふたをしていた」というAさんは、捜査機関から自分が卒業した後にBさんが同じような被害に遭っていたことを知り、ずっと誰にも相談できなかった被害について、「2度と自分のような被害者が出ないよう」訴えることを決意したという。

またBさんも同様に、「被告人が中学でいまだ教職についていることを知って、このままでは新たな被害者が生まれてしまう」と考えて、相談したと供述している。

被害者2人の証言が、被告人の罪を暴いたともいえる。

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