目覚ましアラームにも気を遣うほど静かに暮らしているのに、身に覚えのない騒音クレームが度重なり、怖すぎる——。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
木造の賃貸アパートに住んでいる相談者は、管理会社を通じて「朝のアラームがうるさい」「話し声がうるさい」など複数回クレームを受けたことがあるそうです。また、玄関ドアに「夜中のあえぎ声がうるさい。騒ぐならラブホへいけ」という張り紙をされたことも。
夫婦二人暮らしでお互い騒がしいタイプではないとして、クレームをつけられるほどの騒音には心当たりがありません。張り紙については管理会社に対処を依頼しましたが、騒音トラブルから事件に発展したニュースなどを見聞きし、夜も眠れないほどの不安が続く日々を送っているようです。
引っ越しも検討しているという相談者ですが、もし退去するとなった場合は費用を嫌がらせ犯や管理会社に請求することは可能なのでしょうか。不動産問題に詳しい鮫川誠司弁護士に聞きました。
●日常的な生活音「よほどの音量でない限り違法とはいえない」
──「朝のアラームがうるさい」「話し声がうるさい」などは騒音に該当するのでしょうか。
「騒音」とは、日本産業規格(JIS)の定義では、「望ましくない音、例えば、音声、音楽などの聴取を妨害したり、生活に障害、苦痛を与えたりする音」をいうものとされています。
共同住宅における近隣トラブルとして、音の問題は、分譲・賃貸を問わず、いつも上位にあげられるものの1つですが、市民生活一般の基本法である民法には、このような近隣紛争について「お互い様」という発想の下、隣り合った土地の利用関係を調整するための若干の規定が置かれているに過ぎません。
共同住宅をはじめとする建物のトラブルについては、特に見るべき条文は手当てされていませんし、そもそも、これだけライフスタイルが多様化している現代において、「お互い様」だけであらゆる紛争の解決基準を見出すことは難しくなっているといわざるをえないと思います。
──民法以外の規制はどうなっていますか。
「騒音」については、環境関係の法令や地域の条例で、一定の規制値が設けられています。
ただ、これらの規制値(デシベル)は一つの目安にはなりますが、近隣トラブルでは、これを超えたから直ちに法的に違法ということになるわけではありません。日常生活の中で生ずる物音には様々なものがあり、他方、建物の構造・グレード・用途や地域性などによっても左右されるからです。
そもそも、まったく何の物音もたてずに日常生活をすることは不可能ですから、日常生活の中で生じる物音については、一定の範囲のものまでは、お互いに我慢する他ありません。このお互いに我慢すべき一線(受忍限度)を越えた物音だけが法律上、違法な騒音として問題になります。
そうすると、目覚まし時計のアラーム音や普通の話し声などは、日常生活の中で必然的に生じる物音でしょうから、よほどの水準のものでない限り、受忍限度を超えず、違法とはいえないという場合が多いだろうと考えます。
●嫌がらせの張り紙は「名誉毀損になりうる」
──騒音に悩んでいるとしても、相手宅に張り紙をする行為は法的に問題ないのでしょうか。
音のトラブルは、先に述べたように、受忍限度を超えるかどうかも問題になりますが、そもそも騒音があったのか自体が問題になることもよくあります。
音の感じ方は、物音の種類や聞く人の性格特性などによっても変わってきますので、単に「大きな物音」といっても、第三者にはなかなか状況が伝わりません。
そこで被害を受けていると感じている側も音の発信源とされている側でも、どの程度の物音が生じているかについて、騒音計や振動計を利用して客観的な証拠化をする工夫が欠かせません。
騒音により生活に支障が出ている場合には、いきなり裁判のような法的手段を講じるよりも、当事者間での話し合いで解決することは十分に考えられる方法といえます。
そのためのきっかけとして、手紙を投函したり小さなメモを張りつけたりすることはありえることだと思います。
他方で、今回のケースのように、実際にはそういった騒音があるわけではないのに嫌がらせとして張り紙に及ぶ行為は、他人の生活の平穏を害する行為ですから、法律上も当然、違法となります。
特に今回の張り紙の内容は、当該住戸の居住者の社会的評価を低下させる内容のものというべきでしょうから、刑法上は名誉毀損罪(刑法230条)、民法上も不法行為(民法709条)に該当する可能性があると考えます。
配信: 弁護士ドットコム