●「引っ越し費用を支払え」はなかなか難しい
──嫌がらせや根拠ないクレームを理由に賃貸アパートを退去することになった場合、嫌がらせ犯や管理会社にその費用を請求することは可能でしょうか。
嫌がらせが民法上の不法行為に該当する場合には、加害者は被害者に対して損害賠償の義務が生じます。
また、賃貸の共同住宅の場合には、賃貸人は賃借人が住戸を利用できる状態に置く積極的な義務を負っています。嫌がらせ行為が相次いでいて他の賃借人の共同の利益が害されているようなときには、嫌がらせをしている方の賃借人に対して注意をするといった一定の対応が求められることもあります。
仮に、賃貸人や管理会社がそういった対応をまったくとらないような場合には、賃貸借契約の債務不履行として損害賠償が問題となることもありえます。
そうした場合に、引っ越しに要する退去費用を請求できるかは、このような嫌がらせ行為や貸主側の対応如何と、引っ越しに至ったこととの間の因果関係(原因と結果の結びつき)の問題になってきます。
一般的には、1~2回の張り紙程度では精神的苦痛に対する慰謝料はともかく、引っ越すことが通常生ずべき損害ということは難しいでしょう。
もっとも、嫌がらせの態様や頻度、被害の内容・程度、繰り返されている期間の長短などによっては、引っ越しに至ることもやむをえないとして、その退去費用についても損害として認められることもありえるのではないかと考えます。
【取材協力弁護士】
鮫川 誠司(さめかわ・せいじ)弁護士
司法書士だった経験から、不動産や会社などの登記に関する法令及び実務に精通しています。 また大型の不動産開発に関する事件から近隣紛争まで、不動産に関わる様々なトラブルの解決に、熱意をもって取り組んでいます。
事務所名:神谷町セントラル法律事務所
事務所URL:http://k-central.net/index.html
配信: 弁護士ドットコム