その❹ ずっと背伸びをしていたらいつか倒れてしまう
背伸びをして自分を大きく見せようとしても、速く行こうと大股で歩いても、それらは長くは続かず遠くへ行くことはできないといいます。老子は何ごともなさないことを「無為」と呼び、何もしない、欲を捨てて素朴に生きる方が人間らしく、素晴らしいことだと訴えました。若い世代には、時間対効果を過度に重視する人が増えています。時間を効率的に使う分には、まったく問題はありません。しかし、やたらに急ぐだけでは、どこかに負荷がかかりすぎ、いつかは破綻してしまいます。物ごとは、速ければいいわけではありません。短い時間で多くのことを詰め込もうとしたり、結果を出そうとしたりしても、うまくいきません。背伸びや無理をせず、自分自身のペースで生きていくことが大切です。
その❺ 部屋から出なくても大抵のことはわかる
自然な生き方が何より大切、という老子は、遠くに出かけなくても世の中のことはわかるし、外を見なくても世界の本質は見えるものという言葉を残しています。これは単に外の世界に出ていって何かを見たり知ったりすることは、そもそもよけいなことだからしない方がいい、という意味です。老子は、よけいな知識をつけず、ムダな考えを捨て、自然に任せることが一番。そうすれば、ものごとは自然にうまくいく、といっています。自分探しがブームになり、自己啓発の本も多く出ています。しかし、それでも自分を見つけられなかったという人は多いはずです。人間にとって本当に大切なことは、よけいな知識や見聞を増やすことではありません。自分自身の行動を俯ふ瞰かんして見ることです。知識や情報を何も足さず、自分が何をしたいのか、自分が今後どうしたいのか。答えは自分自身の中にあるからです。
老子の言葉をお届けしました。当たり前に「やらなきゃ」と思っていたことを、筋が通った理論で「やらなくていい」と痛快に力をゆるめてくれる、ありがたい言葉たちでした。何もしない、というわけではもちろんなく、過不足なく自分が求めるものを見つけ、まい進していく。そんな自然なあり方を考えさせられる内容でした。冒頭でもお伝えいたしましたが、もっと深く読みたいと思ってくださった方は『心がフッと軽くなる 老子の言葉 (TJMOOK)』を手に取ってみてください。この本は、60の言葉を解説する、部分部分で気軽に読める内容になっています。
illustration:KARASHISOERU
otona MUSE R
配信: オトナミューズウェブ
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