11:00 昼食
フィンランドでは、1943年に無償給食の法律が定められ(世界初!)、5年間の準備期間ののち、1948年から義務教育を受けるすべての子どもたちに、完全無償の給食提供が開始されました。プレスクールは義務教育なので、朝食と昼食が無償(公費)で食べることができます。
この日のメニューは、
・ニンジンの野菜ナゲット
・茹でたジャガイモ
・コールドソース
・パイナップルとズッキーニのサラダ
・サラダドレッシング
・マスタード
・牛乳
・クリスプブレッド
人気メニューは、チキンナゲット、ひき肉マカロニ焼き、ほうれんそうパンケーキ、フライドフィッシュ、ミートボールなのだとか。自宅では野菜を食べないけれど、プレスクールの給食はどれもおいしくて、給食のときだけ野菜を食べるようになった、という子どももいるほど。ビュッフェとはいえ、このプレスクールの先生たちは、嫌いなものでも、少しは食べるように、と指導していました。
11:30頃に教室に戻ってきて、キシリトールを食べます。これは無償ではなく、各自で購入して記名し、プレスクールに保管しておきます。さすがはフィンランド、キシリトールはやはり、虫歯予防に効果があるのですね。
11:40頃 自由遊び
このクラスでは、遊ぶ前に、誰とどこで何をして遊ぶのかを自分で決めて、自分のネームタグをボードに貼り付けて、誰が見てもわかるようにします。
▲りんごの中のサイコロの目は、遊べる最大の人数
▲ボードゲーム
ブロックやレゴ遊びをする子どももいれば、タブレットを使って、ブロックを組み立てる遊びをする子どももいます。
子どもたちはみんな、家であそんでいるような感覚で、リラックスしている様子でした。フィンランド語で保育園は、”päiväkoti”というのですが、直訳すると「日中の家」。まさにその通り! と納得。プレスクールの時間は12時までで、早い子どもは、保護者のお迎えがきます。
驚いたこと3|学用品は無償で配布
日本でも義務教育の課程で、教科書は無償で配布されますが、フィンランドでは、教科書、ノートはもちろんのこと、毎日使用する鉛筆、消しゴム、定規などの文房具まで無償で配布されます。鉛筆一本まで無償で配布されるとは!と、これまた度肝を抜かれた私。でも考えてみれば、教科書だけ無償配布されたとしても、鉛筆がないと勉強できない。誰もが、完全に無償で教育を受けることができる環境を目指しているフィンランド、そのあたりのことは、やっぱりすごいなぁと感心します。工作や特定の時間に使用するハサミや色鉛筆などは、必要な時に貸し出されます。一つひとつ、細かいものに記名する必要もなく、学校に置いてくるため、忘れ物をすることもない、という、いいことばかり。
▲プレスクールで配布される鉛筆と消しゴム
▲貸し出されるはさみ
▲小学校で配布される教科書やワークブック
フィンランドでは、日本のように家では靴を脱ぐという習慣があり、学校でも玄関で靴を脱ぐのですが、上履きなどはなく、みんな靴下で校内をうろうろしています。日本のように、必ずしも上履きを用意する必要はありません。また、体操服も指定はなく、動きやすい服を持っていくという感じ。体育の授業を見ていると、みんなバラバラの服装で、半袖もいれば長袖もいる、タンクトップ、キャミソールを着用している生徒もいます。さすがにスカートをはいている生徒は見かけませんでしたが、色もバラバラで、パッションピンクや蛍光イエローなど、目立つ色の服を身に着けている生徒もいました。日本の感覚からしてみたら、ん? ここは学校? というほど自由。
ランドセルもなければ、名札や文房具(道具箱)、上履き入れや給食袋などの細かいものも一切なく、特に必要なものは、まったくと言っていいほどないので、息子が小学校入学(入学式というものも特にないのですが)にあたり、かかった費用は、驚くべきことに、正真正銘0円でした。
驚いたこと4|通園、通学方法は自由 冬はソリ通園も
保育園や学校に通う際に、徒歩、自転車、車など決められておらず、自己責任で選択します。その日の気分次第で、自転車で通う日もありますし、冬の雪が積もっている日は、子どもをソリに乗せて通う光景もよく見られます。
15歳になると、原付バイク、原付自動車(日本では、あまり見たことのない軽自動車のような乗り物。バギーとも称される。一般的にはATV〔all-terrain vehicle〕という)での通学も許可されます。先日、中学校の前を通りかかると、駐車場にそのATVが、ひっきりなしに駐車されていて、日本ではあまり見られない光景を目にしました。
驚いたこと5|自宅が遠ければ、公費タクシーやバスで通学
フィンランドでは、一般的に、自宅から一番近い学校に通うことになっていますが、さまざまな事情で、自宅から5キロ以上離れている学校に通う場合は、バスで通学、バスが利用できない場合は、タクシーで通学することになります。バスやタクシー料金も公費から支払われるので、保護者が負担することはありません。
▲スクールタクシー
驚いたこと6|中学校の休憩時間は、スーパーマーケットに
平日のある日、私は近所にある、行ったことのないスーパーマーケットに出かけました。お昼前の時間帯だったのですが、やけに若者が多く、あちこちでうろうろしているのが目に入りました。どうやら、そのスーパーマーケットの近くに中学校があり、そこの生徒が買い物にきている、とのこと。授業の合間の休憩時間や、授業がないコマのときには、自由に過ごすことができ、いったん自宅に帰って軽食をとったり、近所のスーパーマーケットで、食べ物や飲み物を自由に買ったりすることができるらしい。日本の一般的な公立中学校に通っていた私にとっては、これまた大きな驚きであり、ここでも日本とフィンランドの自由度の違いを実感させられました。
驚いたこと7|学校での保護者面談は、母国語の通訳付き
学校と保護者の個人面談では、保護者の母国語がフィンランド語ではない場合、公費で通訳を付けることができます。面談だけでなく、子どもの健康診断や、病院での診療のときでも、必要があれば付けることができます。これは、移民に対しても、言語や文化を尊重するという観点で、誰もが平等に扱われるべき、という考え方からであるといいます。直接通訳者が同席してくれる場合もありますが、遠隔地であったり、時間的な問題があったりする場合は、オンラインでの通訳も可能です。
まとめ
旅行では、何度か訪れたことがあるフィンランドでしたが、やはり、「旅行する」と「住む」とでは大違い!生活の実情が見えてきて、驚くことばかり。いろいろな方が、本やウェブに執筆されているように、教育に関しては特に、個人の自由、意志が尊重され、誰もが、できるだけ平等に教育を受けることができるように配慮されていることを実感しています。また、みんな違ってみんないい、ありのままの姿でいいんだよ、という考え方が根底にあるんだなということが、ひしひしと感じられます。
(文・写真:Toma)
この記事の執筆者Toma小学校教員、研究員等を経て、現在、フィンランド在住。フィンランド人の夫と、息子・娘の4人家族。
東京大学大学院新領域創成科学研究科修了。在学中は、環境倫理・社会学を中心に学び、ドイツのシュツットガルト大学にも留学。これまで、ドイツの幼児・環境教育について、書籍等に執筆、翻訳書も手がけた。
海外暮らしの中で日本のアニメの良さを再認識し、アニメ鑑賞に没頭中(ホームシック時には特に!)。→記事一覧へ
配信: マイナビ子育て
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