フランスの名女優・女優イザベル・ユペールと「硫黄島からの手紙」の日本人俳優・伊原剛志の共演が話題の「非日常ヒューマンドラマ」。
夫を亡くし、喪失感を抱えるフランス人作家が、京都や奈良など日本での旅を通して新たな一歩を踏み出していく。
日本の出版社に招かれ、気乗り薄だが初来日した、フランス人作家のシドニ(ユペール)は、日本側の編集者・溝口(伊原)に出迎えられる。ホテルでは開かないはずの窓が開いていたり、弁当が誰かに食べられているなど不可解な出来事が続く。
どうやら、亡き夫・アントワーヌ(アウグスト・ディール)の幽霊の仕業らしい。夫の面影を引きずるシドニと寡黙な溝口との距離が縮まっていく─。
監督は「ベルヴィル・トーキョー」(2010年)のエリーズ・ジラール。彼女の日本愛が色濃く反映されていて興味深い。日本建築や文化だけでなく、伊原の役名を「溝口健三」と、往年の邦画の名匠と一字違いにするなどの茶目っ気も見せている。
ただ、それだけに終わらないのが本作のよさ。夫の幽霊が、まるで“お盆の精霊”のように登場するのもユーモラスだ。
またタクシーの中で、伊原の逞しい手が華奢なユペールの手と絡み合うあたりは、かなり艶っぽい! その後に映る本当のラブシーンは、ストップ映像でつなぐ斬新さで、監督の好センスを感じる。
愛の喪失者たちへの救済、哀悼と再生…中高年世代の琴線に触れる、「大人の映画」だ。
(12月13日=金=シネスイッチ銀座ほか全国順次公開 提供:東映 配給:ギャガ)
秋本鉄次(あきもと・てつじ)1952年生まれ、山口県出身。映画評論家。「キネマ旬報」などで映画コラムを連載中。近著に「パツキン一筋50年」(キネマ旬報社)。
配信: アサジョ
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