重度自閉症の息子、言葉は発しないけれど、タブレットで書く長編の作品。学びたい気持ちに寄り添い続ける母【重度自閉症体験談】

重度自閉症の息子、言葉は発しないけれど、タブレットで書く長編の作品。学びたい気持ちに寄り添い続ける母【重度自閉症体験談】

知識と表現力を高めたい息子のため毎日朗読。今読んでいるのは『戦争と平和』

――博仁さんは小学校5年生のとき、「将来の夢は小説家」と発表しました。

敦子 クラスのイベントで「2分の1 成人式」があり、1人ずつ将来の夢を発表することになりました。博仁はみんなと同じようにその場で発表することはできないので、事前にタブレットに入力。文字を入力する様子を先生が撮影してくれ、イベント当日、スクリーンに大きく映してくれたんです。
真剣そのものの表情で文字を入力する姿は、同級生が知っているいつもの博仁とは全然違います。その姿を知ってもらえる機会をいただけたことが、とてもありがたかったです。もちろん、将来の夢を発表できたことも・・・。スクリーンの横にいた博仁は、うれしさのあまり、飛んだり跳ねたりしていましたが。

――全国の自治体などが主催するエッセーや作文のコンクールで、博仁さんはこれまで9つの賞を受賞しています。

敦子 博仁は本当に文章をつづることが好きで、自分を表現できる唯一の方法だと考えています。書きたいことがたくさんあるんだと思うんです。だから参加できるコンクールがあれば、積極的に応募するようにしています。

――博仁さんの「書きたい」という気持ちをサポートするために、敦子さんがしていることはありますか。

敦子 博仁は自分の知識と表現力を高めるために、たくさんの本を読みたいと望んでいます。でも、自分では本を読めません。じっとしていられないので、文字を目で追うことが難しいんです。音読された言葉を聞いて理解することはできるのですが、私の声だとよりスーッと内容がはいっていくようですので、市販の朗読教材などは使っていません。これは博仁だけじゃなく、重度自閉症の子にはよくあることみたいです。

だから博仁が読みたいと思う本は、私がせっせと読み上げています。今は博仁が高校から帰ってくる15時ごろから1、2時間、朗読するのが日課。読んだあとはどう感じたか質問し、感想を博仁がタブレットに打ち込む、というのを繰り返しています。

最近読んでいるのは、トルストイの『戦争と平和』。戦争について調べ始めた博仁のために、先生がすすめてくれた本なのですが、あまりにハードルが高いんじゃないかと気になって、「つまらなかったら無理しなくていいよ」と言ってみました。ところが、博仁からは「すばらしい本です」「おもしろいです」と返ってきました。

私は読んでいる途中で、ストーリーの人間関係がわからなくなることもしばしば。そのたび「この2人はどういう関係だったっけ?」と博仁に質問すると、即座に「きょうだいですよ」などと答えてくれます。ちゃんと内容を理解しているんだなあと感心します。

自分と同じ境遇の子どもたちの思いを世の人に知ってもらう。それが息子の目標

――博仁さんは、中学3年生のときに応募した「第15回子どもノンフィクション文学賞」で優秀賞を受賞。この作品では戦争に行った大叔父の人生をたどっています。博仁さんの現在の夢も「小説家」ですか。

敦子 文章をつづって作品を世に出したいという夢は今も変わりません。でも、想像の世界を描く小説家ではなく、ノンフィクション作家になりたいようです。
博仁が14歳のときに書き、「第14回子どもノンフィクション文学賞」の選考委員特別賞をいただいた作品「闇の中から扉を探して」の中でも、こう書いています。

「僕の夢は僕の仲間達が皆と同じように教育してもらえる未来を作ること。(中略)僕も怖がらずに勇気と誠実さをもって文章を綴り続けよう」

博仁のように重度の自閉症で言葉を話せない子は、考えていることと表情や表面的な行動に大きなギャップがあり、何を考えているのか、何を求めているか、周囲の人に理解してもらえないことが多々あります。また、博仁のように知的障害があると診断された子どもの中には、実は学習意欲が高く、知性を高められる可能性のある子がいるかもしれません。
自分と同じような境遇の子どもたちの声にならない声を、言葉にして世に送りたんだと思います。それを自分の使命だと感じているようです。

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