●レアケースではない?「鉄道会社は必要な請求をしているはず」
──鉄道会社が損害賠償を請求するというのは珍しいのでしょうか。
基本的には、どの鉄道会社もきちんと必要な請求はされていると思います。
というのは、鉄道会社も営利を目的とした民間企業であり、その経営の善し悪しは株主によって注視されているからです。法的に言えば、会社が損害を受けたのに必要な請求を怠った場合には、株主代表訴訟を起こされる可能性があるからです。
人身事故に関して、請求があまり公にならないのは、個人への請求について今回のように加害者側が自ら公開するのはレアケースであるからだと思われます。
死亡事故について、損害賠償義務は遺族に相続されるため、裁判で遺族に対して請求が行われたケースもあります(たとえば、最高裁まで争われ、2016年に判決のあった認知症徘徊による踏切事故に関する訴訟など)。
──人身事故により迷惑を被った利用者からも、何か請求できないのでしょうか。
事故を起こした本人に損害賠償を請求できるケースとしては、人身事故が原因で急停車した際に転倒して負傷した場合のように、直接被害を被った場合です。
ですが、列車が遅れてコンサートに間に合わなかった、飛行機に間に合わなかったというような場合にチケット代の請求は難しいと思います。
仮に裁判で争ったとしても、社会通念上相当な範囲の損害とは言えないと裁判所は判断すると思います。
──ケガで済んで幸いというケースでした。
悩みは人それぞれだと思いますが、たまには、いつもと違う方向の列車に乗って、知らない駅で降りて新しい景色に出会ってみてください。
【取材協力弁護士】
甲本 晃啓(こうもと・あきひろ)弁護士
理系出身の弁護士・弁理士。東京大学大学院修了。丸の内に本部をおく「甲本・佐藤法律会計事務所」「伊藤・甲本国際商標特許事務所」の共同代表。専門は知的財産法で、著作権と特許・商標に明るい。鉄道に造詣が深く、関東の駅百選に選ばれた「根府川」駅近くに特許事務所の小田原オフィスを開設した。
事務所名:甲本・佐藤法律会計事務所
事務所URL:https://ksltp.com/
配信: 弁護士ドットコム