●次代へバトンタッチ「儲からないフランチャイズ」がグループ長寿化に役立つ
81歳の今でも「俺はアルバイトだ」と冗談めかしながら厨房に立ち続ける山田さんは、二郎の象徴的存在だ。
いつまでも現役のように思えるが、金子弁護士は冷静に行く末に目線を向ける。
圧倒的な存在感を発揮した創業者の引退によって、飲食業界では店舗やグループが分裂・崩壊することがある。
「飲食業界に広げるまでもなく、ラーメン業界の有名な店でも、内部分裂しているところがあるので、そうならないようにしなければと考えています」
創業者の引退による内部分裂の大きな原因は「一言で言うと、金儲け」と指摘する。
長い目で見れば、儲からないフランチャイズが要になってくるのではないか。
「親父さんの思想、それを継いだ息子さんの思想を各店主が理解した上で商売することで、世間並み、世間並み以上の生活ができることに感謝していれば、分裂は起きないと思う。もうちょっと店舗を増やそうとすればいろいろなことを誤っちゃうのかなと思います。そこは法的に目を光らせながら対応していく」
加盟店でも、世代交代の際にはやはり三田本店での「修行」が求められる。
こうした内容はフランチャイズ契約の規定には入っていないが、グループ内の認識は統一されていると話す。
「親父さんから息子さんへうまくバトンタッチできたのかなと思います。加盟店の目黒店をはじめ、先輩方がそれを支えています。いいスクラムが組めているのかと思います」
●弁護士になった経緯
金子弁護士が山田さんと出会うきっかけにもなった慶應義塾大学への進学は、高校3年間打ち込んだ柔道を体育会系の部活で続けるためだった。
レギュラーとして東京、全日本の柔道大会で活躍。早慶戦で優秀選手賞を得ながらも、柔道の世界には上がいた。「私は一流の下か二流の上くらいなんです。一流になりきれませんでした」
柔道で完全燃焼できなかった悔しさをバネに、自らの力を試す場を司法試験に求め、創部百十数年の歴史で初めて司法試験に合格した。
今では二郎の顧問だけでなく、企業法務にも注力し、京王電鉄の社外役員をつとめる。弁護士として民暴対策に30年以上取り組み続け、暴力団の被害救済活動に汗を流してきた。
こうした弁護士の活動にも、ラーメン二郎顧問弁護士として得た経験が生かされているという。
「問題解決のスタンスとしては、どちらか一方が正しく、一方が悪いということはなかなかありません。こちらの痛みもわかれば、相手方の弱みもわかる。弱みがわかれば、どういう調整が必要かわかる。これはラーメン二郎の仕事で学んだと思います」
70歳になった今も二郎を食べ続けている。弁護士仲間らと「ラーメン二郎を食べる会」を年に3回ほど主催しているそうだ。
「食べ切れないので、小盛より小さいものを出してもらっています。でも、親父さんは私が学生として出入りしていた頃の記憶が強い。今でも勝手に大豚ダブルの野菜マシを出そうとしてきます。年齢を考えてほしいです(笑)」
金子弁護士が慶應義塾の大学院で学ぶ中で、後輩が三田本店でやらかした”粗相”を収める形で、山田さんと知り合った。このような形で「同志」を得られた弁護士も珍しいのかもしれない。
【取材協力弁護士】
金子 正志(かねこ・まさし)弁護士
慶應義塾大学院法学研究科修士課程修了、1986年4月弁護士登録、東京弁護士会所属。職務適正化委員会の委員長として弁護士の不祥事にも目を光らせている。
事務所名:金子正志法律事務所
配信: 弁護士ドットコム