第237回 100年|いとうあさこ

第237回 100年|いとうあさこ

きんも100歳、ぎんも100歳。

なんてCMもありましたが、100年。人間が一日一日“生きる”を100年続けた、と思うと圧倒される。自分が50歳を迎えた時だって「半世紀生きたんだ」と痺れましたが、その倍ですもん。100年って、改めてすごいと思う。実はわたくしの母方の祖父の会社が今年、100年を迎えました。

 

一昨年、『ファミリーヒストリー』が放送された時もちょっこし書きましたが、100年前の1924年、祖父はスチール家具の会社を立ち上げた。その前の年に関東大震災が発生。大火災が起こった。当時、石造り、レンガ造りのオフィスビルも丸の内とかに建ち始めていたけれど、そういうビルですら火事の被害を受けた、と。その原因が、木製品の内装であったり、家具が木で出来ていたりで、結局中が丸焼けになってしまったそう。そこで燃えない家具を、と祖父が考えたのが、日本のスチール家具の始まりとなったのです。幼少期、私は祖父を“棚を作る人”とざっくりしか知らなかったもので、完全に『ファミリーヒストリー』の受け売り、になるのがちょっと悔しいですが、そこから本棚、椅子、ロッカーなどスチール家具を作りだして。ただそれまでみんな家具は木製だったので、その温かみがスチールだと感じられない、とほとんど売れなかったそうです。ただ祖父のお父さん、つまり私の曾祖父が発明に日々いそしんでいた人で、何に使うかわからないけれどベニヤ板にマホガニー調に塗ってみたりしていて。ある日祖父はそれを思い出して、スチール家具をマホガニー調などに塗って販売したところ売れ始め、次第に軽くて丈夫で火災に強い、というところで木目調以外の家具も全国で売れだした、という。

説明が長くなってしまいましたが、そんな祖父の会社が今年で100年、という事で先月100周年記念式典と祝賀会が行われました。その祝賀会の方に私、まさかの“ゲスト”として“乱入”させていただく事に。今、会社は私のいとこが継いでおりまして。私が15歳の時に祖父は亡くなっておりますが、そこから時を経て、孫の1人が社長になり、1人はお笑いの仕事でゲストに呼ばれ、祖父の会社の100周年に関わるようになるなんて。嬉しい? 感動? なんて表現をしたらいいのかわからないですが、胸の奥がギューッってする感じ。感慨深い、ってやつですかね。「おじいちゃん、見ていますか?」みたいな。「孫たち、こんなにおっきくなりましたよ」って。

そうは言っても出番が近づいてくると心臓バクバク状態に。だって100周年ですよ。大切な大切な記念の会。私が台無しにするわけにはいかない。私の出番は会が始まって1時間ちょっとしてから。それまではご挨拶とか表彰式とかやっている。そこに「いとうあさこでーす!」って出ていくんですよ。しかも私、まさかの“シークレット”ゲスト。中の様子を覗く事は許されず。ああ、ド緊張。控室にお声がかかる。出番です。そんなわけで“シークレット”なものですから、私。いわゆる裏導線と呼ばれる、バックヤードを通り、パーティ会場の舞台袖にスタンバイ。皆さん、ご歓談中。そこへMCの方が「さあ、ここで本日のスペシャルゲストをご紹介したいと思います!」待って、“スペシャル”とか言わないで。お願いだからハードル上げないで。「いとう、あさこさんです!」えーい、なるようになれ。「どうもー! いとうあさこでーす!」会場がホテルだったのもあって、私もドレッシーなワンピースにヒール姿。そぐわない空気感の挨拶なのはわかっておりますが、このくらい勢いないと緊張を打破できないので元気に飛び出した。ただねぇ皆さま、優しく迎えてくださいました。ホッ。老若男女数百名はいらしたかな。なんでいとうあさこ? とお思いの方もいらっしゃるので「社長のいとこです!」と自己紹介。そしてここからはもうハッスル。10ℓ弱のビールが入ったタンクを背負い、皆々様に注いでまわることに。しかも私だけじゃなく、社長(いとこ)、あと常務さんの3人で。皆さんコップを持って駆け寄ってきてくださいまして。本当は会場を練り歩いて注ぐ予定だったのですが次々にコップをいただいちゃったので、結局一歩も動かず注ぎ続けました。重たいタンクを背負っているので「大丈夫?」ととても心配していただきましたが、「先日94キロの男を肩に乗せられたので心配ご無用!」と言うと笑っておられました。ふふふ。それにしても社長や専務さんが自らタンク背負って皆さんにビール注ぐなんて、なんか楽しい、いい会社だなぁ、なんて生意気にも思ったりして。うん、いい会社だなぁ。

その後は私といとこでマイクを持って、会社にまつわるクイズ大会。一問目はサービス問題で「創業者は誰?」で写真が3枚。祖父と、前社長のおじと、いとこの写真。もう皆さんわかっていながら、わざと間違えるたりして、とにかく楽しそう。他にも棚の歴史や、専門的な問題も出て。私も「へえ」なんて言いながらお勉強。そして最後は記念写真撮影。私の位置、社長の隣。つまり、真ん中。ウソでしょ!? 皆さんの100周年なのにいいんですか!? 皆さんに導かれて前列真ん中へ。ハイ、チーズ、カシャ。ホントなんかすいません。

こうして無事にパーティ終了。いとこは笑いながら「この後、二次会だよ」と。もう一度書きます。ああ、なんか、いい会社だなぁ。そんなこんなでいろんな方向から祖父が作った会社の100年を見せてもらった、そんな感じ。正直、そんな大切な会で自分が出来ることなんて微々たるものでしたが、とにかく一生懸命やらせていただきました。ちっちゃい頃からじいちゃんっ子で、事あるごとにとにかく祖父に「あーさん(私)、えらいな」って褒められたかった私。だから庭になった冬瓜を、重いしトゲトゲが痛いけど一生懸命運んだり。草餅作る時、ヨモギを取りに山に行った時もいっぱい見つけようと頑張ったりしたっけ。そう思うと今回も、そういう気持ち、ちょっとあったかも。あらやだ、私、成長してないな。おじいちゃん、100周年おめでとう。

 


【本日の乾杯】「リガトーニ スジ肉のラグーソース和え」でございます。近所のイタリアンをテイクアウトで。ショートパスタは本当に“つまみ”になって最高。ホントはお皿に移した方がよいと思いつつ、開けたらガマン出来ず。そのまま、いただきまーす。

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