大手脱毛医療サロン「アリシアクリニック」運営元の医療法人は12月10日、東京地裁に自己破産を申請し、破産手続き開始決定を受けたと公表した。
破産手続きを開始したのは、医療法人社団美実会と一般社団法人八桜会。帝国データバンクによると、負債総額は124億7133万円で、債権者は9万1818人と過去最大規模の消費者被害だという。
現在、アリシアクリニックは営業を停止している。
SNSでは破産の報道を聞いた人たちから、「お金だけ消えて、毛が残るの本当に辛い」「大学一年生の70万円を何だと思ってるんだ」「新卒で頑張ってお金貯めて念願の医療脱毛だったのに」「1回しか施術受けてないのにお金が返ってこない。こんなにもドブに捨てた大金ない」といった悲痛な声が上がった。
アリシアクリニックでは現金のほか、クレジットカード支払い、医療ローンが組まれていた。債権者に返金される可能性はあるのだろうか。また、債権者が集団訴訟を起こすことで返金される可能性はあるのだろうか。森中剛弁護士に聞いた。
●破産手続がどのように進むのか
——今後、債権者はどのような手続きをすることになりますか
破産手続が開始されると、債権者は、個別での権利行使が禁止され、破産手続への参加を強制されることになります。
つまり、各債権者が、破産者に対して、強制執行等により債権を個別に回収することができなくなります。
これは、破産手続が、破産者のすべての債権者に公平な弁済の機会を確保するための制度であるからです。個別の権利行使を許してしまうと、いわゆる早い者勝ちや、破産者の財産がどこにあるか知っている債権者が先に回収できてしまうなど不公平な結果になってしまうからです。
債権者には、破産管財人から、「破産手続開始決定通知書」が送られます。
その中に、「債権届出書」という書類が同封されておりますので、その書類に、必要事項を記入して、債権の根拠となる契約書等の資料を同封して、破産管財人宛に返送することで、ご自身が破産者に対して、どのような債権を有しているのかを届け出ることになります。
破産管財人が、各債権者からの債権届出書及び資料を精査し、債権の有無、金額を確認します。
他方で、破産者の財産については、破産手続開始決定により、破産管財人が管理、処分する権限を有することになりますので、破産管財人において、破産者の財産状況を調査し、破産者の財産を換価します。たとえば不動産であれば売却し、債権を有していれば回収するなどして、現金化することになります。
そのようにして回収した現金について、債権者に配当することにより弁済されることとなります。
ただし、債権については優劣があり、おおまかにいうと、財団債権と破産債権の二つに分かれます。このうち、財団債権については、破産債権に優先して弁済されることとなっております。財団債権は、破産手続遂行のために必要な費用や、各種税金や公共料金などが主なものとなっております。
したがって、破産者の財産は、まず、財団債権の弁済に充てられ、それでも財産が残っていれば、破産債権の弁済に充てられることになります。
ここまで来てようやく、一般の顧客の債権の弁済(配当といいます。)の可能性が出てきますが、破産者の財産の範囲内でしか弁済は受けられませんので、債権の額に応じた按分弁済という方法により配当されます。
例えば、破産者の財産が1億残っていたのに対し、破産債権が10億あったとすると、1億÷10億=0.1となりますので、自身の債権の10%の金額のみ配当を受けるということになります。
●お金が返ってくる見込みはほぼない
——HPに掲載された文書によれば「支払済みの施術代のうち未施術の分は、返金されず」「現在の破産財団の状況に照らすと、現時点では配当の見込みはないため、未施術分の施術代を返金することは、極めて難しい」とあります。実際に、返金は難しいのでしょうか。
配当の考え方は前述のとおりですが、負債総額が約120億円と多額です。また破産にいたった会社には、あまり財産が残っていないことが多いことから、配当の見込はほぼないと思われます。
配信: 弁護士ドットコム