介護分野では、介護福祉士や理学療法士などの公的資格以外にも、現場で役立つ、または自身のスキルアップに役立つ民間資格が数多くあります。
以前、そうした資格を取得するための講座の様子を取材したことがあります。
資格の内容についてあまり具体的には書けませんが、高齢者施設入居者や利用者のQOL向上に役立つものであり、現役の介護職や介護業界での就業を目指す人が多く受講していました。
講座の主催団体からは「団体のホームページに掲載したいので、受講者にインタビューして欲しい」と依頼を受けていましたので、さっそくある受講者に声を掛けました。
インタビュー相手は現役の介護スタッフで「なぜこの資格を取ろうと思ったのか」など一通り話を聞いたのですが、最後に「職場には何も言わないで受講しているので、名前が出るのは困る」と言われ、とインタビュー自体が中止になってしまいました。
昨今は個人情報の扱いに敏感になっている人も多いので、インタビューで「名前を出さないで欲しい」と言われることは珍しくありません。
しかし、このケースでは「職場に何も言わないで受講しているので…」という一言が非常に気になりました。
資格を取ろうと考え、受講したのはこの人自身です。
また受講費用もこの人自身が払っています。
職場に事前に「○○の資格を取りに行きます」と断る必要はどこにもありません。
また、資格を取得したことが職場にわかってしまったとしても、今の仕事・職場にとってプラスになる資格なのですから、何の問題もないはずです。
それにも関わらず、なぜ、この受講者は「職場に何も言わないで…」という点に強くこだわったのでしょうか。
もちろん、急に名前が出るのが恥ずかしくなってしまい、とっさに嘘をついて職場のせいにしたという可能性もあります。
一方で、本当に「資格を取る場合には職場に事前に報告をするように」と義務付けられていることもあるのではないでしょうか。
例えば、介護事業者の中には特定のメソッドを導入しているケースがあります。
それと反する介護の知識や技術、考え方をスタッフが勝手に学ぶのは都合が悪いでしょう。
また、資格を取ったスタッフがそれを理由に給料の引き上げを求めてくる可能性もありますし、資格を活かせる職場を求めて転職をしてしまうかもしれません。
それを防ぐため「何らかの資格を取る際は、事前に報告して許可を得るように」というルールを課している可能性もあります。
資格の取得ではありませんが、介護事業者の中には、スタッフが社外のセミナーや交流会などに参加することを禁止しているところも見受けられます。
「自社が理想としている介護以外の考え方を学ぶことは好ましくない」「他社への転職のきっかけになる可能性がある」というのが理由です。
しかし、こうした縛りは、スタッフの「学ぼう」という意欲を否定することになります。そして、結果的に、こうした意識の高いスタッフほど「成長の機会がない」と先に転職をしてしまうことにつながらないでしょうか。
また、仮に「資格を取得する際は事前に申し出ること」というルールを課す場合、どこまでを対象にするのかという問題もあります。
今回はかなり仕事に近い資格でしたが、英語検定や漢字検定はどうなのでしょうか?民間資格の中には、世界地理検定などほぼ趣味といえる性格のものもあります。
こうした資格まで報告や届け出の対象にしてしまうと私生活への過剰な干渉としてハラスメントとされてしまう可能性もあります。
いずれにせよ、スタッフが時間とお金をかけて学ぼうとする意欲や、その結果を職場が否定することには大きな問題があるのではないでしょうか。
介護の三ツ星コンシェルジュ
配信: 介護の三ツ星コンシェルジュ
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