世界への優しいまなざしと、物語の余韻
藤岡:藤岡拓太郎さんはお笑いとかラジオが大好きで、お笑いに救われた経験があり、そんなお笑いみたいなものを漫画で表現したいってあとがきにも書いてるんですけど。そういう所は作品にもにじみ出ていて、この本には「お笑い大好き男女の文通」とか「ラジオ大好き家族」というタイトルもあります。
「お笑い大好き男女の文通」だと、女の子が「ギャルのパイロットが、フライト中に彼氏に送っていたLINEを教えてください。」って大喜利のお題を手紙で送って、その返事が男の子から届いてワクワクしながら開けたら「乱気流って決めつけるなし(絵文字)」。これで「はぁ~好き……」ってなるんですが、もうめちゃくちゃ可愛いし、面白い。
菊池:大喜利のやり取りを文通でするっていう。いや、よく思いつくなとも思いますし、本当になんか可愛いですよね。
藤岡:可愛い。そう、可愛いって思う瞬間が多いんですよね。
菊池:藤岡さん自体が、世界を否定してないというか。
藤岡:そうなんですよね。藤岡さんの世界への優しいまなざしをすごく感じる。ギャグ漫画なんだけど。
菊池:変な人もいっぱい出てくるんですけど、それを否定的に書いてない。「この人変だよね」みたいな感じで書いてない気がします。
藤岡:そうですね。それって多分かなり難しいと思う。最近はお笑いとかでも、これは笑っていいのか、それとも馬鹿にしてるのか、その線引きって議論に上がって、難しい部分もあるじゃないですか。あの人変だよね、嫌だよねっていう笑い方って、やっぱりしたくないと思ったりするんですけど、藤岡拓太郎さんのお笑いは、みんな変だし、みんな可愛い。そこが実は結構難しいというか、今の社会において課題になっているところなのかなって思うんです。
菊池:うんうん。いや、本当そうだと思います。この本の中にはツッコミがいないんですけど、それで十分面白いし、世界が成立してるっていうのはすごいです。
藤岡:ツッコミがいないからこその余韻や味わいというか、1つの言葉に集約されないで広がって、絵が作り出す世界の余韻と味わいが深い感じがします。
菊池:うんうん、そうですね。
藤岡:藤岡拓太郎さんが、世界をとても優しいまなざしで見ていて、かつ瞬間を切り取るのがうまいというところでいうと、少し前から「パレスチナ連帯カード」っていうのを作られていて、いろんな書店で買えたりするんだけど、ポストカードの売り上げをパレスチナ支援のために寄付するっていうご活動をやられてるんですけど、すごくいい活動だなと思っていて。
そのポストカードには12個の絵が描かれているんですけれど、読みかけの本とか、使いかけで短くなった鉛筆とか、片方だけの靴下とか、生活の瞬間っていう感じのものが並んでいて。1人1人の生活がそこにあって、彼らの生活を想像しようって意図で生活の瞬間を切り取ったイラストたちなんだと思うんですけど。こういうご活動とか発信も、とても精力的にされている方なんですよね。
菊池:そうなんですね。非常に稀な世界観を作れる方だと思いました。
デザインにも様々なこだわりが!
藤岡:元気がない時はぜひ『大丈夫マン』を。表紙が箔押しなんですよね。銀色の。 1ページ漫画がそのまま表紙になっていて、全部箔押しなので、大丈夫マンが吐いた血反吐とか、その血が全部、銀色の箔押しになっていて、そんなの初めて見ました。
菊池:すごく面白いデザインですね。
藤岡:キラキラ輝いてる表紙なので、これも表紙が見えるように飾っておくと、生活の中でお守りになるかもしれません。
菊池:うんうん、そうですね。あと、大丈夫マンの歌も。
藤岡:あ、そうそう、裏表紙には大丈夫マンの歌が載ってるんです。
菊池:これは実際に曲があるんですか?
藤岡:作詞作曲って書いてあるから、あるのかな……?
菊池:表紙が1ページ漫画で、裏表紙には歌詞が書いてある。デザインも特殊ですよね。
藤岡:そうですね。表紙だけを見ても新しいことをたくさんやってます。デザインでいうと、このブックパーティの担当編集の黒川さんが言ってたのが、急にカラーの漫画があるのと、「急に哲学的な女子高生」の絵文字だけがカラーだって言ってて。私気づかなかった……。 白黒なんだけど、絵文字だけカラーになってて。
菊池:本当だ。
藤岡:言われてみれば、細かいところもすごくこだわってますよね。
菊池:そうですね、すごいですね。この本も、他でやったら実験的って言われそうなことを、さらっと「面白い」っていう形でやってて、そういうところもすごいですね。
藤岡:そうなんです。もしかしたら元気がない人にプレゼントしてもいいかもしれない本ですね。
菊池:本当ですね。お笑いが好きな人とかにもぴったりです。
藤岡:ぜひ、周りの人に勧めてほしい本です。 というわけで、藤岡拓太郎さんの『大丈夫マン』でした。
配信: 幻冬舎Plus