下瀬美術館の魅力とは
先述した通り、下瀬美術館の魅力は、そのユニークな建築コンセプトにあります。建築家・坂茂氏が設計を手掛けたこの美術館は、「アートの中でアートを観る」をコンセプトに、瀬戸内海の多島美からインスピレーションを受け、革新的な建築技術とデザインが融合しています。
1.水に浮かぶ「可動展示室」
最大の特徴は、世界で初めて実現したカラフルなキューブ型の「可動展示室」。これは、世界初の試みとして、水の浮力を利用して動かすことができるという驚きの構造です。展示作品に合わせて、展示室の配置を自由に変えることができるため、訪れる度に異なる風景を楽しむことができます。「動かせる美術館」世界初の美術館建築を実現しています。
2. 環境を最大限に活かした設計
約400メートルに及ぶ広大な敷地は、瀬戸内海の美しい風景と一体となるように設計されています。木造建築を取り入れたことで、自然との調和が実現。周辺環境との融合は、下瀬美術館が持つ「軽やかさ」を演出し、訪れる人々を心地よく包み込みます。
3. 建築とアートが織りなす調和
展示空間だけでなく、エミール・ガレの庭や、瀬戸内海を一望できる望洋テラスなど、美術館全体が美しいアート作品のように配置されています。建築とアートが相互に作用しあい、訪れる人々は、五感を刺激されるような、特別な体験を得ることができます。
受賞時のコメント(全文)
Jérôme Gouadain<世界ベルサイユ賞機構 事務総長>
下瀬美術館のプロジェクトは多くのものを表現していると思います。例えば、色使いが非常に興味深く、とても珍しいと言えます。美術館・博物館ではこのようなカラフルなデザインはあまり見られません。またこのプロジェクトは「軽やかさ」をも同時に表現しています。外部と内部の融合が見事で、これが審査員に大きな感銘を与えたのだと思います。下瀬美術館のプロジェクトには審査員全員が賛同したようです。ただし、これは私の印象であり、私は審査員ではないので、彼らの考えを推測してお話ししています
坂 茂 氏<下瀬美術館 建築家>
下瀬美術館は瀬戸内海に面した約400メートル幅の美術館で、環境を最大限にいかしました。水に浮いて動くギャラリーや木造の建築など色々なイノベーティブなものが評価されたと考えています。自由に設計させていただいた初めてのチャンスで、下瀬ゆみ子館長をはじめ多くの関係者の皆様に感謝しております。
吉村 良介<下瀬美術館 代表理事 >
ベルサイユ賞を頂き、とても光栄に感じております。建築家 坂茂先生をはじめ、この美術館の建設に携わったすべての皆様に感謝を申し上げます。坂先生にこの美術館の設計をお願いした際、先生は瀬戸内海の島々をご覧になられ、多島美を表現したいとおっしゃいました。そして、色とりどりのキューブで構成された「可動展示室」のイメージを見せていただきました。その建築パースを見た瞬間、動かせる美術館という世界初の美術館建築を実現しなければならないという強い思いを抱きました。
浮力の力で動かす仕組みの可動展示室の建設は困難を極めました。まずベースとなる下部の台船は造船所で細密に製作したものを台船クレーンで釣りあげたまま、海路より陸揚げし、上屋の部分は現地で建設いたしました。竣工前に水位を上げ、浮力実験を行った時に、約42トンもするキューブが浮き上がった瞬間、現場全員の喚起の声が上がりました。さらに移動を開始すると、一人の力でも動き、全員が驚いたことは今でも忘れません。
2023年3月のオープンから、世界中から数多くのお客様をお迎えしております。今後も多くの方に訪れていただき、下瀬美術館並びに瀬戸内の多島美の美しさをご覧いただけると幸いです。
配信: イロハニアート