”優しい水が染みわたる”ひととき〜『夜更けより静かな場所』読書会開催!|岩井圭也

”優しい水が染みわたる”ひととき〜『夜更けより静かな場所』読書会開催!|岩井圭也

あらためましてこんにちは、作家の岩井圭也です。

この記事では、12月上旬にオンライン(zoom)で開催された読書会についてレポートします。課題図書は、10月に刊行された拙著『夜更けより静かな場所』(幻冬舎)。何を隠そう、この小説のテーマが「読書会」なのです。

今回、刊行前に書店員さんにゲラ(完成前の原稿)を読んでもらったのですが、いただいたコメントのなかにいくつか、「この本の読書会をやりたい」という声がありました。発売後もSNSなどで同じような声をいただくことがあり、担当編集者氏と「いっちょ、やってみますか!」という話になりました。

とはいえ、私たちも読書会を主催するのは初めて。想定を超えるたくさんの人に来ていただいた場合、思いがけないご迷惑をかけてしまうのでは……という不安もありました。くわえて、対面で開催する読書会には少しハードルがあるかも、という話も出ました。

いろいろと話し合うなかで、今回は「書店・図書館関係者の方限定でのオンライン読書会」を開いてはどうか、と方向性が定まってきました。さっそくSNSを中心に募集をかけてみると、ありがたいことに書店員さんたちから続々と応募をいただきました。当日は5名の方が集まってくださり、岩井と担当編集者氏をあわせて、計7名での開催となりました。

この記事では、書店員さんのお名前を仮にAさん(関西)、Bさん(関西)、Cさん(関西)、Dさん(中部)、Eさん(関東)とさせていただきます(カッコ内はお店の所在地)。

読書会当日の岩井

まずは簡単に互いの自己紹介から。その過程で一部の書店員さんたちが実はお知り合いだった、ということも判明し、少し空気が打ち解けたところでいよいよ読書会へ。「さあ感想をどうぞ!」と言われてもなかなか発言しにくいと思うので、岩井からテーマを提案して、みなさんに発言してもらうことにしました。

※ここから先、一部『夜更けより静かな場所』のネタバレがふくまれます。未読の方はご注意ください。

 

 

テーマ 1.この本でいちばん「いいな!」「好きだな!」という一編はどれですか?

『夜更けより静かな場所』は、各編で主人公が異なる連作短編集。みなさんにお気に入りの一編を教えてもらいました。

Aさん

最初の「真昼の子」! 別の書店員さんとも、作中作「真昼の子」を本当に読みたい! と話しました。でも2編目(「いちばんやさしいけもの」)の真島くんもいい。「面白かった」「楽しかった」しか言えない、というのがすごくわかる。そういう感想でもいいんだ、と思ったことが記憶に残っています。

Bさん

私も「いちばんやさしいけもの」が好きです。私もしゃべるのが苦手だから、実際に読書会に行くとあまりしゃべれないと思うし、すごくわかる。終わり方もよくて、泣きました。

Cさん

一編選ぶのは難しい……全体的な空気感がよかったです。特に、「静かで一人になれる居場所」として書店を表現してくれたくだりがとてもよかったです。誰かの安心できる場所としての書店を目指したい、と感銘を受けました。

Dさん

私も「いちばんやさしいけもの」がよかったです。「能力の有無にかかわらず、すべての人間には生きる価値がある」という言葉が胸に残りました。

Eさん

私は「真昼の子」が好きです。物語本編というか人物が好きなのですが、吉乃が真昼の子にぐっとのめり込むシーンが、「わかる……!」と共感して、吉乃というキャラクターがとても好きになりました。その後、深海の3代目に……? という思いきりの良さも好きです!

 

ちなみに、音楽経験のある担当編集者氏のお気に入りは5編目「トランスルーセント」。『小説幻冬』で連載していた時にも、熱烈な感想メールをもらいました。音楽の描写はもちろん、ヴァイオリンを弾くに至る心情描写も大好物、とのこと。

人によって好きな作品がばらけるのかな? と思っていたのですが、今回の読書会では「真昼の子」と「いちばんやさしいけもの」がツートップでした。

 

テーマ 2.6冊の作中作のなかで、いちばん「読んでみたい」本はどれですか?

『夜更けより静かな場所』には6冊の課題図書が登場しますが、実はいずれも作者の創作です。

そんな作中作のなかでも、いちばん読んでみたい本をうかがってみました。

Aさん

「真昼の子」絶対読みたいです!

Dさん

私も「真昼の子」読みたいです。めちゃくちゃ検索してしまいました。

Bさん

「真昼の子」も書いてほしいけど、「いちばんやさしいけもの」の絵も描いてほしいです!

Eさん

わたしは「いちばんやさしいけもの」が読んでみたいです! 文章だけでもすごく優しさが伝わってきたので、絵本としても読んでみたいと思いました。

Cさん

「トランスルーセント」の楽譜をぜひ。(笑)

「雪、解けず」もクセがあるストーリー展開で、面白かったです。

 

実は執筆時には、表題作となった「夜更けより静かな場所」もふくめ、各編の内容はまったく考えずにタイトルから決めて書き出しました。同じタイトルの先行作品があるか、などもまったく考えていなかったです。(今になって、もし同タイトルの本があったらどうしよう、と心配に。)

ちなみに「隠花」は、「プロの詩人が書いた詩作品」として書いたのですが、ちゃんと相応の作品になっているかどうか……詩作の素人の岩井はとても怖かったですし、今も怖いです……。

 

テーマ 3. 『夜更けより静かな場所』を人におすすめする時、どんなふうに話しますか?

意外と、書店店頭で本をおすすめしてくださる時にどう話しているのか、作者自身は知らない気がします。せっかく書店員さんに集まってもらったので、みなさんに教えていただきました。

Aさん

お客様におすすめする時は、「この1年で読んだ本のなかで一番好きな作品なんです」と言っています。いろんな種類の短編が載っているから、どんな方でも読みやすいと思いますよ、とも話しています。

Bさん

昨日もおすすめしたんですけど、なんて言ったんだっけ。(笑)とにかく本がめっちゃ好きになります、今まで本を読んで感じてきたこと全部がここに載ってます、とおすすめしたいです。いろんな本が載っているけど、全部岩井さんが創作したんですよ、というのも言いたい!

Cさん

実際に店頭でおすすめしているんですが、おすすめした人には全員買ってもらっています。今年読んだなかでもいちばん好きな本だし、読書が好きな方にとって「優しい水が染みわたる」ような気分で満たされる読書ができます、と話してます。6冊の本(作中作)が出てきて、各編に6人の感想を書くというのはすごい技術なのに、それを目立たせずに成立させているところもすごいです。

Dさん

「この本すごくおもしろいので、とにかく読んでみてください。短編集なので、どれか一編はささると思いますし、読むと岩井圭也さんのファンになると思います」ってすすめてます。

Eさん

私自身、SNSで他の書店員さんがおすすめしているのを見て読みました。私も他の方(お客様)におすすめしたい! と思う作品でした! 本好きな人にこそ読んで欲しい、面白さもあり穏やかな気持ちになれる作品です、と実際に思ったことをお伝えしたいです。

 

担当編集者氏は本書を通じて、小学生の頃に本を読んで初めて「面白いな」と思った時のことを思い出した、と話してくれました。いやなことがあっても「本があれば大丈夫」と思えた、そういう感情を想起させてくれる1冊、とのこと。

今回、ゲラの感想をたくさんいただいたのですが、読んだ方の個人的な読書体験を書いてくださるコメントが多かったのが、作者としては印象的です。もしかすると、『夜更けより静かな場所』という本には、本にまつわる記憶を刺激するところがあるのかもしれません。

この流れを受けて、次のテーマを投げかけてみました。

 

テーマ 4. もし、『夜更けより静かな場所』を通じて思い出した読書体験があれば、教えてください。

Bさん

私はテレビのない家で育ってきて、ずっと本を読んできました。一方で、母は本をまったく読んでいなかったんですが、今年のお正月から母が私の勧めた本を読むようになったんです。

ちょうど『夜更けより静かな場所』が出るころ、岩井さんの本を読んだ母が、初めて感想を言ってくれた。初めて母と本の話をすることができて、「本の話をするのってこんなに楽しいんだ!」と思いました。文芸を読む人ってそんなに周りにいないので、母とその話をすることができてとてもうれしかったです。

Aさん

(話を受けて)本を読む人って、書店で働いている若い人でもそんなにいない。ただ、「この1冊だけ読んでみて!」とおすすめして「よかったです!」と言ってもらうとすごくうれしいです。今も「この子はどんな本が好きかな?」と考えながら、おすすめするタイミングを狙っています。

 

ちなみに作者自身は、高校時代に井上ひさし『吉里吉里人』を読んで感動したことが、今回の執筆の根底にあります。『吉里吉里人』のようにすごい小説はまだ書けなくても、あの時の感動は書けるのでは……というのがきっかけの一つでした。

本を読む時は誰もが一人ですが、他の人と読んだ本の話をすることで、読書の楽しみを何倍にもできる。そんなことを、この読書会を通じて改めて知ることができました。

 

最後に、Cさんから「作中作にモデルはありますか?」という質問をいただきました。

各作中作にこれといったモデルはないのですが、私自身の30数年にわたる読書体験を総動員して作り上げました。

本書の帯にも書いていますし、私もインタビューなどでよく話しているのですが、『夜更けより静かな場所』は私なりの「読書へのラブレター」のつもりで書きました。これまで私の人生をつくってきた(といっても過言ではない)読書といういとなみへの愛情をこめて書いたので、その小説を愛してもらえること自体が、私にとっては最大のごほうびなのです。

ここで、開始からおよそ1時間が経過。今夜の読書会はここまで、とさせてもらいました。

ありがとうございました。

手探りの状態ではじめたオンライン読書会でしたが、作者としてもいち本読みとしても、本当に楽しいひとときでした。みなさんの『夜更けより静かな場所』への想いを聞くことができて嬉しかったですし、作者でも知らなかった美点や、現場の様子をうかがうことができたのも、読書会ならではだったと思います。

Cさんが本書について「優しい水が染みわたる」ような気分になる、と言ってくれましたが、読書会そのものの雰囲気を正確にあらわした、すばらしい表現だと思います。

やっぱり、読書会って素敵だなぁ!

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