ラーメン店を訪れたカップルが、「大人は一人一杯」という店側の要望に応じなかったとして、店側が「今後はご来店頂かなくて大丈夫です」とSNSで怒りの投稿をしたことが話題になっています。
投稿によれば、来店したカップルが2人で一杯のラーメンを注文しました。どのようなやりとりがあったか詳細は不明ですが、最終的に店主は客に返金した上で帰ってもらったといいます。「今後はご来店頂かなくて大丈夫です」とも投稿していました。
店側の投稿からすれば、このカップル客は「二人で一杯」しか注文しなかったとみられますが、客側のお腹の減り具合やお財布事情もあったのかもしれません。このような「大人は一人一杯」という店側の要求に応える義務が客にはあるのでしょうか。半田望弁護士に聞きました。
●「ルールがあらかじめ客に示されていたか否かが重要」
──店側が「大人は一人一杯」というルールを設けることは可能なのでしょうか。
飲食店での注文は、法的には客が店側に料理の提供とサービスを求め、店側がサービスを提供する代わりに料金を請求するという契約になります。契約には一定の条件(ルール、特約)をつけることが可能です。
また、客側が店を選ぶ自由があるように、店側にも客を選ぶ自由がありますので、ルールに同意しない客の注文を拒むことも問題ありません。
──仮に注文の後にルールを伝えられたとしても客側は従うしかないのでしょうか。
契約には双方の意思の合致が必要ですので、店側が一方的に料理やサービスを提供し、あるいは条件をつけたとしても、客がサービスの提供や条件に同意しない限り、客との間では契約が成立すると理解することはできません。
「大人は一人一杯」という店側が設けたルールがあるとしても、客にそのルールが提示されていなければ、来店した客がルールに同意したとはいえませんので、ルールの内容は契約に含まれないという理解になります。
今回のケースでルールがどのように示されていたのかについては詳細不明ですが、仮に「大人は一人一杯」というルールが注文前に示されていなかったのであれば、原則として、客には一人一杯のラーメンを注文する義務はないことになります。
──「大人は一人一杯」が、入店時や食券購入時にルールとして明確に示されていた場合はどうでしょうか。
客側がルールを確認して入店したとしても、その時点ではまだ契約は成立しておらず、店側の要求に応じる義務はありません。しかし、店側としても契約を拒む自由があります。
ですので、客がルールに応じないのであれば、注文を断ることもできますし、退店していただくという対応も可能です。
また、店側にも客を選ぶ(契約する)自由がありますので、ルールを破った場合の今後の来店拒否(出入り禁止)も店側の判断で可能です。
ただし、客がルールを破ったことで店に損害が出るとは通常考えにくいので、注文した商品の代金以上に損害賠償を請求するなどは難しいと考えます。
【取材協力弁護士】
半田 望(はんだ・のぞむ)弁護士
佐賀県小城市出身。主に交通事故や労働問題などの民事事件を取り扱うほか、日本弁護士連合会・接見交通権確立実行委員会の委員をつとめ、刑事弁護・接見交通の問題に力を入れている。また、地元大学で民事訴訟法の講義を担当するなど、各種講義、講演活動も積極的におこなっている。
事務所名:半田法律事務所
事務所URL:https://www.handa-law.jp/
配信: 弁護士ドットコム