仕事の同僚を「フキハラ」(不機嫌ハラスメント)で訴えたい──。このような相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者の同僚は忙しくなると不機嫌になり、相談者に対する言葉遣いが悪くなったり、嫌味を言ったり、舌打ちをしてくるそうです。
相談者は、不愉快に思い、他の同僚に相談しましたが、皆はフキハラを認識しているものの、その同僚の威圧した態度が怖く「誰も注意ができない」といいます。社長にも相談しましたが、社長ですら怖がって注意しようとしません。
客からの苦情もあり、相談者自身が同僚に注意しましたが、改善されませんでした。相談者はストレスがたまり、体調も崩し始めているようです。
相談者としては「我慢に疲れたため、フキハラで同僚を訴えたい」と考えているようですが、そんなことが可能なのでしょうか。下大澤優弁護士に聞きました。
●「フキハラで訴えてやる!」が容易でないワケ
——「フキハラ」を理由に、損害賠償を請求する事は可能なのでしょうか。
「不機嫌ハラスメント」(フキハラ)を定義すると、「不機嫌な態度や言動により、他者に対し不快感や精神的苦痛を与える行為」という内容になります。
これは法律上の用語ではなく、ハラスメントの一類型として昨今話題になっているものです。
フキハラを理由とする損害賠償請求の可否を考える場合、問題となるフキハラ行為が不法行為(民法709条)に該当するといえるか、言い換えれば、他者の権利を違法に侵害するといえるか否かが重要です。
「不愉快である」という理由だけで不法行為が成立するわけではないという点に注意しなければなりません。
この観点から考えますと、「言葉遣いの荒さ」、「嫌味」、「舌打ち」といった言動は、他者に不快感を与えるものではありますが、ただちに他者の権利を違法に侵害するものであるとは言い難いように思います。つまり、言動の質として、ただちに不法行為に該当するとは言い難いということです。
このような言動が長期にわたり継続的になされる(量の問題)ことによって不法行為該当性が認められる余地はあるかもしれませんが、基本的に、フキハラの問題は不法行為の枠組みで解決することは難しいものだと考えられます。
——それでもフキハラで訴えようと考えている場合、どんな証拠が必要でしょうか。
フキハラ加害者の言動を証拠化する場合、可能であれば、録音等の客観的な記録を残すとよいです。逐一作成したメモ等も証拠のひとつにはなりますが、録音等と比較すると、記録内容の信用性が低下する傾向にあります。
一点注意が必要なのは、録音等による記録をする場合、必要最小限の範囲にとどめることです。
従業員の一人が職場でずっとボイスレコーダーを回しているとなると、他の従業員は業務がしにくくなることもあります。また、会社内部の会話がすべて録音されるとなると、会社秩序の維持に支障を来すこともあり得ます。
●加害者のメンタルケアなど「不機嫌の原因を取り除く対策も有用」
——訴えること以外に何かとり得る対処法はありますか。
損害賠償請求による対処が難しい場合、フキハラ加害者に対し、会社から改善指導をしてもらう方法が考えられます。
フキハラが不法行為には該当しないとしても、職場環境を乱す不適切な行為であることは間違いありません。このような場合には、職場環境を維持するため、使用者(会社)がフキハラ加害者に対し改善指導をすることに正当性があります。
改善指導にもかかわらずフキハラ加害者が一向に態度を変えない場合には、配置転換や懲戒処分により、一歩踏み込んだ措置を講じることも考えられます。ただ、このような措置を取るにあたっては慎重な検討が必要となるため、使用者の判断に委ねざるを得ません。
──意外と対処が難しいように感じます。
フキハラというのはつまるところ、自らの感情をコントロールできないことに起因するのだと思います。根本的にはメンタルヘルスの問題が影響していることも多いと思われます。
損害賠償や懲戒処分は、いわば加害者に対するペナルティを与える解決策ですが、加害者のメンタルケアをし、根本的な原因を取り除く解決策も有用だと思います。
【取材協力弁護士】
下大澤 優(しもおおさわ・ゆう)弁護士
2012年司法試験合格、2014年に弁護士登録。勤務弁護士を経て2016年に定禅寺通り法律事務所(仙台市)を開設。離婚・男女関係のトラブル(婚約破棄等)に注力している。
WEBサイト:https://sendai-rikon.com/
事務所名:定禅寺通り法律事務所
事務所URL:https://sendai-rikon.com/
配信: 弁護士ドットコム