●赤ちゃんの頭の形が丸くないとき、どこに相談すればいい?
子どもの頭の形が気になる…と悩んだとき、子どもをどんな医療機関に診せればいいのだろうか? 実は、赤ちゃんの頭の形を専門にした外来があるという。今回お話を伺った国立成育医療研究センターは、形成外科のなかに「赤ちゃんの頭のかたち外来」がある。
「こちらでは、かかりつけ医からの連携で、赤ちゃんの頭の形の診断と治療を行い、その程度や時期に応じてヘルメットを装着する『頭蓋形状誘導療法』を導入しています」(金子氏 以下同)。
「頭蓋形状誘導療法」は、歯列矯正のように頭の形を圧力を加えて動かすというものではなく、平らになっている頭にヘルメットを装着して成長しやすくする治療法だ。つまり、正しい形に「誘導」するというイメージだが、それでは頭の形がいびつだと、どんなデメリットがあるのだろうか。
「頭の形は、脳の成長増大に伴って左右対称になるものですが、実際に外国では、よちよち歩きの頃までは発育に影響があるという報告があります。しかしそれが頭の形によるものなのかははっきりしません。一般にはそのような発育の軽微な遅れはいずれ追いつくものと考えられています。ただ、眼鏡のツルの長さの調節が必要だとか、男子だと野球帽やサイクリングのヘルメットが曲がってしまう、女子だとポニーテールが曲がってしまうなど生活上のちょっとした不都合はあるようです」
●民間療法の「頭蓋骨矯正」は根拠なし!
わが子の頭の形が気になるママがインターネットで検索すると、「頭蓋骨矯正」という言葉がよくヒットするが、金子先生は、「根拠がない言葉なので、このキーワードが入っている情報には注意して欲しい」と警告する。「頭蓋骨矯正」は形状誘導療法とはまったく無関係であり、根拠のないものであるため、消費者庁からも注意喚起が行われている。ママたちはしっかりと区別してほしい。
「私たちが取り入れた頭蓋形状誘導療法は、米国・ミシガン大学で始まった手法です」と語る金子先生。
1992年以降、米国で「新生児のうつぶせ寝は乳児突然死症候群の確率が高まる」という認識が高まったことで仰向け寝させる家庭が増え、それまで欧米では少なかった“絶壁頭”や斜頭など頭の形がいびつな子どもが増えたそう。わが子の頭の形を気にする親が増えたことがきっかけで、赤ちゃんの頭の変形の研究・治療が始まったという。
米国ではヘルメットによる頭蓋形状誘導が普及し、50種類以上のヘルメットが食品医薬品局(FDA) に認可されている。ヘルメットの装着で、斜頭の赤ちゃんでも、半年後には丸に近い頭の形に成長していくと言われている。
日本は2011年に治療を開始した国立成育医療研究センターを含め、現在は全国4カ所にミシガン大学式の頭蓋形状誘導ヘルメットによる治療を受けられる病院がある。同センターには、西は福岡、東は青森まで、日本中から患者が治療に訪れている。
●なぜ赤ちゃんの頭の形はゆがんでしまうのか
頭の形がゆがむ理由はいくつかある。まずは胎児の間に変形したもの。これは赤ちゃんがお腹のなかで横位になっていたり、あるいは多胎、早期下降や羊水が少なかったりすることが原因で、赤ちゃんの頭に圧力がかかってしまうことが要因だ。近年は不妊治療による多胎が増えていることもあり、このケースは増加しているという。そして出産時の外圧で変形するものがある。これは生後1カ月くらいで治るものが多い。
その他、後天的なのが”向き癖”によるもの。向き癖 がなぜ生じるかはよくわかっていないそうだが、生活習慣に伴うものもあるとのこと。片側、あるいは頭の真後ろばかりを下に向けていたなど、寝かせ方が偏っていることも理由のひとつとして挙げられるが、ママが同じ方向で抱っこしていることが影響することもあるとのこと。「そういえばいつも子どもの頭を右(または左)にして抱えているかも…」というママは要注意かもしれない。
それでは、頭の形が悪いからといって、見た目が気になる以外に何か大きな問題はあるのだろうか。
「頭蓋変形は、頭蓋縫合早期癒合症という病気で起こることもあります。ですから外来では、その有無を確認した上で、変形の度合いを見ていきます」
頭の形に左右差があると、なかにある脳も同じ形で成長する。仮に頭の形によって脳の形が左右不均等になったとしても、それが発達などに影響するかはわからないとのこと。
「おそらく(発達に影響は)ないと思いますが、ごく初期の運動発達の遅れや左右差が向き癖のきっかけになっているのかもしれません」と金子先生は語る。
どうやら、頭のゆがみが赤ちゃんの成長に影響する心配はなさそうだ。
(取材・文/相馬留美)