●頭の形を3つの基準で確認
頭の変形具合によって、赤ちゃんのヘルメット治療に進むというが、その重症度はどうやって判断するのだろうか。
「重症度は大きく3つの基準があります」(金子氏 以下同)。
1.見た目の重症度
まず、どの部分の形に問題があるのかによって、6段階でグレードをつける。グレードは高くなるほど重症度が高い。
グレード1:一側の後頭部の平坦化(向き癖があるほうの後頭部だけに変形が見られる)
グレード2:耳の位置の左右差
グレード3:ひたいの形の左右差
グレード4:顔面の左右差
グレード5:側頭または後頭部の隆起
グレード6:短頭(いわゆる絶壁頭)
上記のうち、グレード2からが治療の対象になる。
2.CA(Cranial Asymmetry)
非対称かどうかのチェック。
頭の中心の線から30度傾けた2つの対角線の差を指す。ゆがみが大きいほど非対称になり、CAは大きな値となる。CAが概ね15以上が治療の対象となる。
3.Cephalic index
長頭か短頭か、または絶壁度合いのチェック。頭の左右幅と前後長の比率を指す。3歳以下の日本人の標準値があり、これを参考に治療の対象を決める。
この3つの基準をもとに、総合的に判断して、ヘルメット治療をするかを決めるという。しかしこれより軽度でも、生活習慣の見直しや体位変換で改善できる場合もあるので、気軽に相談して欲しいとのことだ。
●赤ちゃん用ヘルメットは、たった200グラムの重さ!
では、ヘルメット治療とは、具体的にはどんなことをするのだろうか。
「基準を満たした赤ちゃんには専用のヘルメットを作成し、平均して約5カ月くらい着用してもらいます」
ヘルメット治療に入ると、開始から1~2週間は短時間の着用をしてヘルメットに慣れるようにする。そのあと、1日23時間、お風呂に入るとき以外は着用していることになるそう。
「1歳くらいになると、自分でヘルメットを外せることができるようになります。だいたい5カ月くらいは着用しておきたいものですので、治療を開始するのは生後6カ月以下が望ましいですね」
「そんな小さな赤ちゃんにヘルメットなんてかわいそう!」というママもいるかもしれないので、実際のヘルメットを見せていただいた。その重さは、なんと約200g! とっても軽い素材で作られているのだ。触り心地は、樹脂のような硬い素材ではなく、発泡スチロールに近い。とはいえ、強度はあり、一度作ったらそのまま最後まで使えるという。
ヘルメットの形は、赤ちゃんの頭のサイズを計測し、さらに治療後の最終的な頭の形を想定してCAD/CAMで作り上げる完全オーダーメイド。ひとつひとつ日本の医師が専用のソフトウェアで設計し、米国技師がそのデータをもとに作り上げるという。
とは言え、動き回る赤ちゃんの頭を計測するのはなかなか難しそうだが…。
「LEDスキャナー を使って計測します。頭の全体を計測しても、2、3分で完了します」
測定から約10日で完成品が病院に届くという。
●治療にかかる費用は?
今のところ、ヘルメットによる頭蓋形状誘導療法は自費診療となる。
費用は病院ごとに違うが、国立成育医療研究センターではヘルメット製作からメンテナンスまで含めて40万円と消費税がかかる。サイズ調整などはすべて病院で行うため、3~4週間ごとに通院する必要があるが、それ以外で親の負担はヘルメット内の消毒程度である。
なかなかお金はかかるが、はたしてその効果は? ヘルメットをつけた感想を赤ちゃんに聞くことはできないが、金子先生がヘルメット装着を始めた赤ちゃんを見ていると、楽に頭を動かして向きを変えられるようになっていくという。
「頭の形がゆがんでいると、赤ちゃん自身も重い頭のせいで体を思うように動かせず、けっこう苦労しているんですよ。丸いヘルメットをつけただけで頭が動かしやすくなるので、そりゃ本人も快適になっているはずですよ」
ヘルメットは、実は赤ちゃんにとってもウェルカムなものなのかもしれない。
(取材・文/相馬留美)